リヴァックスコラム

第9回 「個別事案の疑義照会について(その2、特別管理産業廃棄物管理責任者) 」

長岡 文明氏

前回の個別事案の疑義照会その1の最後には、<数多くを読み込んで「拳骨の握り具合」を習得していく>と書きましたので、今回は「その2」として最近の疑義照会通知を2~3取り上げてみましょう。


<参考事例>

自動車用廃バッテリーに関する特別管理産業廃棄物管理責任者について
平成一八年七月三一日 事務連絡 各都道府県・各政令市宛 環境省
産業廃棄物処理行政の推進については、日頃より格別のご尽力をいただき、感謝申し上げます。
さて、標記の件について、兵庫県からの疑義照会に対し、別添のとおり回答したところですが、複数の都道府県から同内容の質問をいただいていますので、参考までに送付いたします。

自動車用廃バッテリーに関する特別管理産業廃棄物管理責任者について(照会)
平成一八年七月二一日 事務連絡 環境省宛 兵庫県課長
廃棄物の処理及び清掃に関する法律第12条の2第6項の規定に基づき、特別管理産業廃棄物を排出する事業場に設置することとされている特別管理産業廃棄物管理責任者の資格要件については、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「規則」という。)第8条の17第2号に規定されているところですが、自動車用廃バッテリーを排出する事業者において、下記の者を、規則第8条の17第2号リに該当する者と解してよいかご教示願います。
 
1 資格対象者
(1)一級、二級及び三級の自動車整備士
(2)自動車電気装置整備士
(3)車両系荷役運搬機械、車両系建設機械及び高所作業車について、労働安全衛生法第45条第2項に規定する資格を有する者(特定自主検査有資絡者)
2 該当するとした理由
(1)〜(3)の有資格者は、これらの資格の取得の際の研修、講習及び通常業務等を通じ、自動車バッテリーの取扱いについて、十分な知識を有しているため。

自動車用廃バッテリーに関する特別管理産業廃棄物管理責任者について(回答)
平成一八年七月三一日 事務連絡 兵庫県宛環境省
平成18年7月21日付けで照会のありました標記の件について、下記のとおり回答いたします。
 
貴見のとおり解して差し支えない。

環境省と全国の自治体、環境省と照会自治体である兵庫県のやりとりの時系列や、その関係については、前回のコラムと同じなので参照してください。(参照:コラムVol.8)

なお、この通知には、「自動車整備士」に関する資格取得の方法や社会的な位置づけが記された文書が添付されていますが、このコラムでは省略しています。
原典は、これも前回紹介しました日本環境衛生センターから出版されています「廃棄物処理法の解説」を活用ください。

まず、本論に入る前ですが、今回のこの通知は「事務連絡」というものです。

今まで取り上げてきた「通知」は、施行通知でも疑義照会通知でも「文書番号」というものがついていましたね。あれが、いわゆる「公文書」なのですが、今回の「事務連絡」というのは、正式な公文書とは見なされません。
事務連絡とは、担当者同士の単なる書簡、いわば、お手紙のやりとりという位置づけです。 そうは言うものの、最近では平成22年の廃棄物処理法改正時や3.11(東日本大震災)関連でも、結構重要な事項が「事務連絡」として発出され、出版されている三段法令集の中にも掲載されているほどです。

さて、今回の具体的な疑義を見てみましょう。

皆さんの中には、特別管理産業廃棄物管理責任者(以降、「特管責任者」と略します。)の資格を持っていらっしゃる方もいると思います。その方々は、どうやってその資格を取得なさいましたか?おそらく、多くの方は「公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター(以降、「振興センター」と略します。)の講習会を受講した」とお答えになるのではないでしょうか?
でも、特管責任者になるコースは、振興センターの講習会受講だけではないんですね。それどころか、現在、法令上は「振興センター講習会」という文言さえ登場しなくなってしまいました。

この照会通知にも出ています、その根拠条文を見てみましょうか。


<参照通知>

(特別管理産業廃棄物管理責任者の資格)
省令第八条の十七  法第十二条の二第九項 の環境省令で定める資格は、次の各号に定める区分に従い、それぞれ当該各号に定めるものとする。
(1号略)
二  感染性産業廃棄物以外の特別管理産業廃棄物を生ずる事業場
イ 二年以上法第二十条 に規定する環境衛生指導員の職にあつた者
ロ 学校教育法に基づく大学(短期大学を除く。ハにおいて同じ。)又は旧大学令に基づく大学の理学、薬学、工学若しくは農学の課程において衛生工学(旧大学令に基づく大学にあつては、土木工学。ハにおいて同じ。)若しくは化学工学に関する科目を修めて卒業した後、二年以上廃棄物の処理に関する技術上の実務に従事した経験を有する者
ハ 学校教育法に基づく大学又は旧大学令に基づく大学の理学、薬学、工学、農学若しくはこれらに相当する課程において衛生工学若しくは化学工学に関する科目以外の科目を修めて卒業した後、三年以上廃棄物の処理に関する技術上の実務に従事した経験を有する者
(ニ~ト中略)
チ 十年以上廃棄物の処理に関する技術上の実務に従事した経験を有する者
リ イからチまでに掲げる者と同等以上の知識を有すると認められる者

これが、平成12年以前は

一 厚生大臣が認定する講習を修了した者
二 前号に掲げる者と同等以上の知識を有すると認められる者

と規定されていました。この「厚生大臣が認定する講習」=「振興センター講習会」で、現在でも続いています。

ところが、平成12年からの規制緩和の流れで、現在ではこの文言は廃止され、前述の規定となっています。

多くの自治体では、「リ」の「同等以上の知識を有すると認められる者」として「振興センター講習会受講修了者」として取り扱っているのですが、兵庫県では「なにも振興センター講習会受講修了者だけが<同等以上の知識を有すると認められる者>とは限らないだろう。

自動車のバッテリーなら自動車整備士も<同等以上の知識を有する>のではないか」と考えて、環境省に問い合わせしたわけです。
ちなみに、「免状」はどこからも交付されませんが、法令の条文「ロ」の通り、理系の大学を出て、二年以上廃棄物の処理に関する技術上の実務に従事した経験を有する者は、特管責任者の資格有り、となります。行政の立入検査や、ライバル会社からのいちゃもんで「おまえは本当に特管責任者の資格があるのか」と聞かれたときは、大学の卒業証明書、衛生工学若しくは化学工学の単位取得証明書、それに会社からの「二年以上廃棄物の処理に関する技術上の実務に従事証明書」を併せて提示すれば、「免状代わり」となります。

さて、自動車のバッテリーですが、その構成材料を見ていくと、まず外枠はプラスチックの箱(筐体)、これは廃棄物となった場合は廃プラスチック類となります。
次に電極ですが、これは金属くず。内容液はPHの低い硫酸が入っていますから、これは廃酸。しかも、この廃酸は極めて酸性が強くPH2以下になっているときが多いので特管産廃の廃酸。さらに、この内容液の中には、高濃度で鉛が溶け込んでいます。(ただ、ここは極めて廃棄物処理法の中でもわかりにくく難しい事項の一つなのですが、高濃度で有害な金属が溶け込んでいる酸は排出する事業所が<たとえば>水質汚濁防止法の特定施設の第何号に該当するか、によって、特管産廃となったり、有害ではあるが普通の産廃となったりします。確認なさりたい方は、拙著「土日で入門、廃棄物処理法」の35頁を見てください。)

まぁ、ここで注意すべきは、自動車整備工場から廃バッテリーが廃棄物として排出される時は、PH2以下の廃酸が出るので、特管産廃となる、ということですね。

となると、自動車整備工場のほとんどで、特管責任者を選任しなければならないんだけど、振興センター講習会を受講しなければいけないんだろうか?そもそも、自動車整備工場には大抵の場合、自動車整備士が居て、自動車整備士の資格を取るためには、国家資格試験を合格しているし、自動車の一部品であるバッテリーに関する知識も十分にあるだろう。 と、なって、環境省への疑義照会、と、なった訳ですね。
そして環境省は、「貴見のとおり」、「そのとおりでいいよ」と回答して、さらに、全国に、その内容をお知らせしたわけです。お知らせしたって事は、他の自治体でも、同様に取り扱ってねとなる訳ですね。


<まとめ>

さて、この通知をご覧になったみなさん、どのように思いましたか?

前回の「貝や海草は汚泥として扱っていいのか?」と同様に、「こりゃ、いいこと聞いたわい。なにも振興センター講習会をわざわざ受講しなくてもいいのか。」なんて安易に考えてはだめなんです。
というのは、ここが「一件通知」の難しさなのですが、この通知で環境省が全国に向けてお知らせしたのはあくまでも、兵庫県の問い合わせがあった「この事案」についてだけなんですね。

前述の通り、この事案はいろんな形容詞、すなわち、条件、状況が限定されていましたね。
「自動車用廃バッテリー」「自動車整備士」「特定自主検査有資絡者」「自動車電気装置整備士」、これらの条件を全て満たすケースにしか回答していないんです。

前回の「水路掃除の貝や海草」よりは、ケースは多いかも知れませんが、これをどこまで汎用性を持たせるか、などは、現場の行政に判断を任せている要素は多いのです。
たとえば、「自動車用廃バッテリー」と言っていますが、オートバイのバッテリーは範疇だろうと思いますが、停電時の非常用にビルに設置されている空調用バッテリーならどうだ、とか、水質汚濁防止法の特定施設において、公害防止管理者が選任されているが、この資格ではどうか?とか、ガソリンスタンドからは揮発性の廃油が排出される時があるが、この時は消防法の危険物取扱者の資格ではどうか? など数限りなく派生していきますね。

これらについては、BUNさんの知る限り、具体的に「他の資格で特管責任者の資格有り」と明言している通知は無いと思います。 「あとは、自治体や排出者が類推して自分の責任で判断しろ」ということなのかもしれませんね。 なお、多くの自治体では、他の資格ではだめです。振興センター講習会を受講してください。これを機会に廃棄物処理法の勉強をして人材を育成してください、とお伝えすると思いますし、BUNさん個人としても、他の資格を持っているからと言って、廃棄物処理法を知っているのか?一般廃棄物と産業廃棄物の区別さえ付かないんじゃないか。是非、講習会は受講してください、とお伝えしています。

なんといって、ここ数年は振興センターのテキストの執筆者でもありますし、講師もしていますからね(^o^)/

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

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