リヴァックスコラム

第15回 廃タイヤ180日通知

長岡 文明氏

廃棄物処理法のセミナーをやっていまして、最も質問の多い事項が「うちの事業所から出て行くこの<物>は廃棄物なのか?有価物なのか?」「買ってきた物なんだから廃棄物処理法は適用されないだろう」等の総合判断説です。

「総合判断説」については、既に第2回、3回、8回、11回の時にも登場している「文言」で、廃棄物処理を検討するに当たっては、避けて通れない基本的な概念です。
「物が有価物か廃棄物かは、「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「占有者の意志」の5つの要因について総合的に判断する」というものでしたね。

ここまでは知ってるよ、と言う方も多いと思うのですが、現実問題としては、「じゃ、どの要因がどの程度になったら廃棄物になるの?」「どの要因がどうなったら有価物として扱っていいの?」という、さらに一歩踏み込んで具体的に示したのが、今回ご紹介する通知です。


<参考通知>

野積みされた使用済みタイヤの適正処理について(衛環65号)
野積みされた使用済みタイヤの適正処理について(衛産95号)

あれ?同じような通知が2本出ていますね。
どちらも、「野積みされた使用済みタイヤの適正処理について」という題名ですし、発出年月日も同じ日なので、特に後ろの通知は見落としがちです。

よく見ると最初の通知は、環境整備課長からの通知。次は、産業廃棄物対策室長通知からの通知なんです。
当時、廃棄物処理法は旧厚生省が所管していて、まだ、産業廃棄物所管は「課」に昇格していない、環境整備課の中の「室」だったんですね。

環境整備課において、一般廃棄物も産業廃棄物も扱っていた時代でした。ちなみに翌年の平成13年に、環境庁が環境省に昇格(?)し、その時から一般廃棄物については廃棄物対策課、産業廃棄物については産業廃棄物課が所管しています。ですから現在では、一般廃棄物に関する通知は廃棄物対策課長名で、産業廃棄物は産業廃棄物課長名で、廃棄物処理法全体に関する内容ならば、廃棄物・リサイクル対策部長名か、または、廃棄物対策課長と産業廃棄物課長の連名で発出されます。
まぁ、お役所は自分の「持ち分」、所管が明確に区分されていますから、自分に権限のないことまで口出しすることはできないってことですね。


<本題>

閑話休題、今回の通知も、そんな「自分の権限」の課題があったのでしょうか、部外者からは内情はよくわかりませんが、「言いたいことは室長通知」であることは明白です。
と言うのは、一読なさればお分かりになると思いますが、環境整備課長通知は、総合判断説そのもので、この通知だけを読むのであれば、今更、改めてなんでこんな通知を出したんだろう?ってレベルです。(ちなみに、この通知発出の前年、平成11年に最高裁で「おから裁判」の判決がおり、ここから総合判断説が定説として公認された形となりました。)
一方室長通知は、今読んでも、「よくここまで踏み込んだなぁ」と感じるほどですから、当時、これを最初に見たときは、「偉い、よくやった」と日本の片隅から喝采を送ったものです。

通知本文に入る前に、なぜこの時期に廃タイヤだったのか、今回取り上げた趣旨などを説明。


<BUNさんの趣旨>

この平成12年という年はまだ自動車リサイクル法はスタートしておらず、日本全国で廃自動車の山積みが問題になっていました。当然、自動車の付属品であるタイヤも同様に山積みが取り上げられていました。タイヤは成分としては、合成樹脂(廃プラスチック類)が主成分ですから、腐ったりしませんし、燃やせば、その熱量は高く、黒煙や排ガス等を度外視すれば燃料として使用することも可能です。
また、土留め材や公園の遊具としても使用することもできます。(半分埋めて跳び箱代わり、鎖で吊してブランコ代わり等、今でも見かけることがありますよね。)

そこで、タイヤとしての用途をなさなくなった後も、「これは俺が使うんだ」という「有価物主張」を展開し、廃棄物処理法を逃れようとする輩(人たち)が大勢いました。

彼らのもっとも<上手なやり方>は、(今でこそ紹介できますが、当時、こんなことを世間に公表すれば、脱法行為を教示している、と非難されたでしょうね。(^_^;))自動車整備工場やディーラーなどから二束三文で大量の廃タイヤを買ってくるんです。その中から、1割、2割ほど状態の良いタイヤを抜き取り、中古タイヤとして販売する。残りの8割、9割を山奥のほとんど価値のない自社敷地や借地に「放置」するんです。

これが一番たちが悪い。最初から処理料金を取ってきているのであれば、「無許可」とか「処分業者に搬入しろ」とか「排出者に対する廃棄物処理法の遵守」等で攻められる。

ところが、この手法を採られると「オレはこのタイヤは買ってきたんだ」「売るつもりで保管しているんだ」という主張が成立する。たしかに、タイヤは腐らないので、汚泥や動植物性残渣のように極端に悪臭を生じたり、有害物が流出したりはしないので、なかなか、警察も行政も手を出しにくかったんですね。しかし、結局は、「買った」と主張していたほとんどの廃タイヤは放置されたまま、行為者は行き方知れずになってしまう、というケースでした。

そこで、行政は事態が大事になる前に、「おまえが保管している廃タイヤは廃棄物であり、従って、廃棄物処理法が適用され、このままの状態では不法投棄罪として検挙されるぞ。(だから、早く片付けろ。元々の排出者には廃棄物処理法の排出者責任が適用になる。)」と言ってやりたい。

すなわち、「廃タイヤは廃棄物である」と行政や警察が堂々と言える理論構成が欲しかったんですね。

では、いよいよ、室長通知の注目点を見ていき、必要に応じて課長通知を参照しましょう。


<室長通知>

一 前記通知四における占有者に明らかにさせる事情

これまず重要です。

総合判断説の5つの要因の一つに、「占有者の意志」ってありますね。これを行政が調べるにはどうしたらいいのでしょうか?この要因の難しさは「占有者」の頭の中を覗いてみなければ他人にはわからないことです。「放置」「投棄」をするような人間が、自ら進んで「これは廃棄物です」などと言う訳がありません。
でも、「これはオレにとってお宝よぉ」なんて言葉を鵜呑みにしていたのでは、事態は進みませんね。そこで、「有価物と主張するなら、自分で証拠を示してみろ」と行政は言うべきだってことなんですね。

廃タイヤの場合、「社会通念上合理的」な理由として、具体的には次のようなことだと例示したんです。


<例示とポイント>

 (一) 溝切り等を行いタイヤとして利用する、土止め、セメント原料又は燃料として利用するなど使用済みタイヤを自ら利用するものであって、これらの目的に加工等を行うため速やかに引渡しを行うことを内容とし、かつ履行期限の確定した具体的な契約が締結されていること。

ポイントは「使用目的に則した具体的な行為が明示している契約書」ってことですね。
「お宝だ、お宝だ、と言うだけじゃ、世の中が納得しないよ。何のために、どのようにして、これから、この廃タイヤを使うんだい?それはいつまで、誰がやるんだい?ちゃんと、書類にしているの?」ってことですね。

次に、これがこの通知の最大のポイントなのですが、「長期間にわたりその放置が行われているとき」の対応を書いているんですね。 「概ね一八〇日以上の長期にわたり乱雑に放置されている状態をいうものである」と踏み込んだ。すごいですね。
前述の通り、廃タイヤは腐りません。そのような性状のような物であっても、半年もそのままにしているっていうのは、廃棄物として判断していいよってことなんです。

普通「商品」であれば、半年も動かないってあまりないでしょ。仕入れもあれば、販売もある。品物は動いてあたりまえだよね。ところが、この廃タイヤは、お前さんは「お宝だ」と主張するけど、半年も「放置」しているままじゃないか。まぁ、本当に「在庫」というんだったら、雨風、日光に当たらないように、品質劣化など起こさないように、ちゃんと倉庫にきちんと保管しているっていうなら別だけどねってことなんですね。

腐らない廃タイヤでさえ、そうなんだから、腐っていく汚泥や動植物性残渣などは、推して知るべし、もっと、もっと短い期間でも「廃棄物と判断」してしかるべきだよ。というように応用して判断していくべき内容です。


<まとめ>

この通知から既に10年以上経っているわけですが、今でも「買ってきたのだから有価物だろう」と、その「買ってきた」という要素だけで、物が有価物か廃棄物か決めたがる人がいます。
「買う」というのは、総合判断説の「取引価値の有無」というたった1要素だけの話です。また、「買った」としてもいつまでも、その状態が続き「売れる」とは限りません。食料品などはわかりやすいですよね。お魚を大量に仕入れてしまった。ところが、客が来なくて、腐っていってしまった。どう考えても、腐ってしまった魚は、仕入れたときとは状況が違っている、と誰でも理解できますよね。

自動車リサイクル法も施行され、ほぼ順調に運用されているようで、15年前、20年前に比較すれば、格段に廃自動車や廃タイヤの野積み、不法投棄って減少したと思います。

じゃ、この「廃タイヤ180日通知は役目を終わったか」と言えば、BUNさんはそうではないと感じています。総合判断説を理解するには、とてもよい内容だと思っています。この通知以降に発出された通知に「行政処分の指針」というのがあります。(直近改正は平成25年)この中に「廃棄物該当性」という章が設けられ、さらに詳細に総合判断説を解説しています。総合判断説について、さらに勉強してみたい方は、ここの「指針」と、最高裁で出された「おから裁判」の判決文なども読んでみてくださいね。

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

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