リヴァックスコラム

第5回 代執行、措置命令について

長岡 文明氏

今回取り上げる事案は、リヴァックスコラム愛読者の皆さんにとっては、多分、一生関係のないことです。ただ、不思議なことに、決して違反をしないような人ほど、「もし、違反したらどうなるの?」とお聞きになる方も多いので、取り上げてみました。

今回の事案の「行政代執行」という事態は、最悪、最終手段です。
この事案では、「費用は概算で3000万円」と書かれていますが、この3000万円は誰が出すと思いますか?「一旦は行政が負担するだろうが、最終的にはこの行為をやっていた業者に請求するんだろう。」大正解です。 では、請求して払うと思いますか?
払えるようなら、措置命令になる前に、自分で片付けていますよね。

と言うことは、建て前は前述の通りなのですが、現実には代執行というのは、行政の、すなわち税金で賄われるってことになる訳です。言うまでもなく、税金はみんなが出しているお金です。と言うことは、この措置命令、代執行にまったく無関係である人達のお金が使われるってことですよね。
全く無関係な人のお金を使うんだったら、もっと優先順位の高い人物がいるんじゃないだろうか?

その通りなんです。それは誰でしょう?それは「排出者」ですね。

不法投棄に代表される不適正事案になると、排出事業者にも「必要経費を負担してくれ」、と行政は働きかけをします。「うちは処理料金を払ったんだから責任は無いだろう」と言う排出事業者もいます。でも、改めて考えてみると、不適正処理をやっている張本人も、排出事業者も必要経費を負担しなければ、その経費は無関係な人につけ回される、ということになるんですね。

「あなたが不法投棄をするような人物に頼んだからこそ、こんな事態になったんでしょ。頼んだあなたも悪いよね。」という理屈です。

そのため、措置命令は排出事業者も対象になるように規定されています。

第十九条の五

  産業廃棄物処理基準又は産業廃棄物保管基準(中略)に適合しない産業廃棄物の保管、収集、運搬又は処分が行われた場合において、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるときは、都道府県知事(中略)は、必要な限度において、次に掲げる者(中略)に対し、期限を定めて、その支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる。

一  当該保管、収集、運搬又は処分を行つた者(趣旨、張本人)

二  (趣旨、排出事業者にかけられている委託基準)の規定に違反する委託により当該収集、運搬又は処分が行われたときは、当該委託をした者

三  当該産業廃棄物に係る産業廃棄物の発生から当該処分に至るまでの一連の処理の行程における管理票に係る義務(中略)について、次のいずれかに該当する者があるときは、その者(マニフェスト諸規定の違反者)

ということで、このコラム読者の方なら既におわかりのことと思いますが、措置命令は、契約書やマニフェストの規定に違反して処理を委託した排出者は、違法行為をやっている張本人と全く同等の措置命令の対象になる、ということになります。


ちなみに、記事の中には「改善命令」という文言も出てきます。
この機会に、改善命令と措置命令の違いを説明しておきましょう。

改善命令というのは、「基準を守りなさい」というものです。たとえば、中間処理施設における保管量は、通常、「処理能力の14日分」です。一日破砕能力100トンの破砕施設においては、100トン×14日=1400トン、この量が合法的な保管上限となります。これを3000トン保管していたとすると、3000トン-1400トン=1600トンオーバーですよね。この超過している分を減らして、基準値通りの1400トンにしなさい、という命令が改善命令となります。

従いまして、改善命令は基準が適用になる人物は対象になりますが、基準が適用にならない人物は対象にはなりません。

記事の事案であれば、この中間処理施設で保管をやっている張本人は、改善命令の対象になるが、その保管場所での保管基準が適用にならない排出事業者は、この改善命令の対象者にはならないってことですね。


措置命令は、「生活環境保全上の支障(その「おそれ」を含む)を除去せよ」というものです。たとえば、水道水源地の付近に廃油が入ったドラム缶が放置されたとしましょう。いつ、ドラム缶が転がったり、穴が空いたりして、廃油が水源地に流れ込まないとも限りません。そうなったら、水道が飲めなくなってしまいます。こういう事態を「生活環境保全上の支障」と呼ぶわけです。

措置命令は、前述の通り基準の適用を問わず、その事案の関係者は誰でも対象になるよう規定されています。


改善命令違反では、通常は代執行は行われません。基準は守られてはいないが、生活環境保全上の支障が出ているレベルではない、ということです。まぁ、現実的な話としては、生活環境保全上の支障が出るようなら、行政としても税金を使ってでもなんとかしなければならないが、そのレベルまでは行っていない、ということでしょうね。

記事の事例を見ても、最初は改善命令を受け、履行せずに状況が悪化し、措置命令を受け、それでも履行できなかったことから、行政は代執行に踏み切ったというケースのようです。
おそらく、記事には出てきませんが、水面下では行政は排出事業者に対しても、自主撤去等の指導はやっていたものと思われます。
ちなみに、改善命令違反は最高刑懲役3年、措置命令違反は最高刑懲役5年という罰則が規定されています。

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

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