リヴァックスコラム

第6回 中央道、土砂崩れ事件を考える

長岡 文明氏

今回の記事は全国ニュースにも取り上げられ、質問も多いものですから、急遽取り上げてみました。

ポイントはいくつかあります。


疑問1、土は廃棄物なのか?

廃棄物処理法の適用を受けるのか? これは、次のように判断します。
元々は天然の物であっても、一旦人間の占有下に入り、それ以降廃棄されるのであれば、廃棄物処理法の適用を受ける、と原則的には考えるべきでしょう。たとえば、木製の机にしても、元々は「天然の木」であった訳です。ですから、「天然の木であった、天然の土であった」は廃棄物処理法非適用の理由にはなりません。 古い疑義応答ですが、鉄道線路の枕木の下に敷き詰める「砂利」は、廃棄物処理法では「何に該当するか?」という質疑があり、当時の厚生省は「建設廃材」である、と回答しています。

「建設廃材」は、平成9年の政令改正で、現在では「がれき類」と呼称される産業廃棄物です。 つまり、「砂利」なんていうものは、天然の状態と性状的には、ほとんど、なんら加工も変化もしていないにもかかわらず、一旦人間の占有下に入り、工作物として使用された後「不要となれば」、やはり廃棄物、という考え方を示したものと言えるでしょう。(ただし、廃棄物処理法スタート時点での古典的な通知により、浚渫汚泥、漁に於いて網に掛かった夾雑物をそのまま海に返す行為は廃棄物処理法の対象外としています。)

よって、今回の「白い粘土質の物質」も、かつては「天然の土」であったでしょうが、陶器やその上薬(うわぐすり)の原料とする目的で、採取された以降は、いくら性状的に加工されていないとしても、ましてや、精製や選別された以降の「不用品」ということであれば、間違いなく廃棄物処理法の対象になる「廃棄物」でしょうね。


疑問2、「白い粘土質の物質」が廃棄物だとしたら、廃棄物の種類としては何に該当するでしょうか?

産業廃棄物20種の内、何に該当するかは、もっとも妥当な種類とするしか無いわけで、まぁ、汚泥が妥当でしょうね。
時折、「行政はなんでも汚泥にしたがるがなぜか?」という質問も受けます。これを「がれき類」や「ガラスくず」と判断してしまうと、安定型最終処分場に埋立処分が可能になります。また、「がれき類」や「ガラスくず」は有害物質の含有、溶出試験の規定がありません。その点、「汚泥」は全ての有害物の対象になりますし、業種の指定がありませんので、もっとも厳しい基準が適用されるからです。

ですから、「あやしい物質だ」と思われるようなケースでは、行政としては安全性を考慮して、汚泥としていろんな検査の対象として、より安全な処理をさせたいのです。 また、汚泥は木くずや紙くず、動植物性残渣などと異なり、「指定業種」がなく、事業活動を伴って発生していれば、即座に産業廃棄物(一般廃棄物ではない)と判断がつきます。 ということから、今回の事件の「白い粘土質の物質」は、産業廃棄物である「汚泥」と判断される可能性大です。



疑問3、有害性はあるのか?

一部のマスコミ報道では、「発がん性」のリスクも示しているようですが、むやみに「有害性」を強調することには賛同できません。 廃棄物処理法で規定する「有害物」は水銀やカドミウムなど25の物質に限定しています。たとえば、猛毒として知られる「ふぐ毒」のテドラドトキシンは廃棄物処理法では「有害物」とは規定していません。あまりにも多種多様な物を有害物としてしまうと、かえって規制が難しくなるために、「通常の排出形態から溶出や含有が想定される有害物」に限定していると考えてもいいかもしれません。そのため、廃棄物処理法で規定していない有害な物質は山ほどあるわけですが、一方で、「焦げた焼き魚」でも発がん性のリスクはある、と言われています。もちろん、たばこの煙も有害なものの一つですが、世の中には喫煙者は大勢います。
このように、「安全」「リスク」の評価、管理は本来は科学的に行うべきものであり、やたらに「有害」と騒ぎ立てるのは考え物です。きちんとリスク管理を行うべき物でしょう。

今回の「白い粘土質の物質」も、「汚泥」として規定されている「有害物の溶出試験」の検査結果から科学的に判断されるべきものと思います。



疑問4、本来、今回の「白い粘土質の物質」はどのように処理するべきだったのでしょうか?

適正(合法的)な処理方法を排出者として取れないようなら、許可業者に処理を委託するべきだったでしょう。


疑問5、自社処理は出来なかったのでしょうか?

実は、これは歴史的な法令、規制の経過があると思われます。 私も、マスコミ、新聞報道された情報しか知りませんので、真実は不明です。以下は一般的な話として聞いてください。

そもそも、「投棄してならない」という法律がなければ、廃棄物を捨てる行為は法律違反にはなりません。原始時代は言うに及ばず、江戸時代、明治時代、そして昭和時代でも「廃棄物を投棄する」という行為は法令的には違反とは言えなかったのです。日本全国くまなく「不法投棄」が禁止されたのは、平成4年7月からなのです。 ところが、不法投棄と同様の行為がそれ以降もありました。これが、「ミニ処分場」と呼ばれていたもので、管理型なら1000平方メートル未満、安定型なら3000平方メートル未満の最終処分場は、平成9年の改正までは、届出も設置許可も不要だったのです。現在は、最終処分場はいくら小さな規模でも設置許可の対象となっています。

あくまでも推測ですが、この事件の会社は40年ほど前から、この場所に「捨てていた(保管していた)」と言っているようなので、当初は「合法的(法律がない、法律が緩い)」な状態であったのかもしれません。 しかし、前述の通り、平成9年以降は、「ミニ処分場」の規定は撤廃され、それ以降規模を拡大したり、埋立地の構造を変更したりすれば、その時点から「無許可設置」と判断されるようになりました。この会社は最近まで、ここに「捨てていた(保管していた)」と言っているようなので、明らかに法律違反だと思われます。


疑問6、廃棄物処理法のどのような違反になるのでしょうか。

「みだりに捨てていた」と判断されれば、第16条違反、不法投棄です。
ただ、この会社は「自分の土地に、穴を掘り、きちんと埋めていた」、少なくとも今回の土砂崩れまでは、周辺の環境に明白な生活環境保全上の支障を与えていたわけではない等になると、16条違反よりも、15条違反、「最終処分場の無許可設置」の方が相応しいかも知れません。 自分の占有下にある場所で、わりときちんと埋め立てる行為は判断が難しい要因もあるのです。ただ、不法投棄も無許可設置も罰則としては、どちらも第25条、廃棄物処理法では一番重い罰則ですから、どちらでもいいのかもしれませんね。


疑問7、当事者の一人は、「保管だ」と主張しているようですが、保管なら不法投棄にも最終処分場の無許可設置にもならないのではないですか?

「保管」とは、適正に処分する意志を持って、一時の間、置いておくのが保管です。
この事案では40年間、ほとんど「適正な処分」としてこの場所から搬出したことは無いようです。また、発生場所以外での保管は、今回のような「置きっぱなし」を防止するために、「前月搬出実績の7日分」しか、翌月は保管してはならないという規定もあるのです。このような状況を総合的に判断すれば、「保管」という主張は通らないでしょう。


疑問8、今後、どのようになるのでしょうか?

私は、廃棄物処理法の事案は、大きく分ければ「処分」と「原状回復」、別の言い方をすれば刑事処分、行政処分と民事に分けて考えた方が整理しやすいと思っています。
まず、刑事の方ですが、前述の通り、明らかに不法投棄か無許可設置という違反をしていますから、関係者は検挙され裁判を経て、懲罰を与えられるでしょう。 ただ、関係者が牢屋に入ったからと言って、廃棄物が消えて無くなるわけではありません。 こちらが、行政処分と民事の関係になってきます。
行政は、道路に散乱した産業廃棄物については、とりあえず「応急処置をしろ」という措置命令を発出したようです。しかし、これだけでは根本的解決にはならず、当然ながら、まだ山の上に存在している「汚泥」は、大雨が降れば、再び土砂崩れを起こすかも知れません。ですから、これらについても、「原状回復」、すなわち、「撤去」を命令するものと思います。 これらにかかる経費は、当然、原因者負担なのですが、その経費が負担できずに倒産等となれば、行政は「行政代執行」もせざるを得なくなるでしょう。


いずれにしても、現在進行形の事案の上に、マスコミ報道による情報だけをもとに論じましたので、その点はご承知置きください。 他山の石として、事案の推移を見守りましょう。

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

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