リヴァックスコラム

第24回 作業工程の下請について考えてみよう

長岡 文明氏

みなさん、こんにちは。
「BUNさんに聞いてみよう」というコーナーでやってきているのですが、
メルマガ愛読者の「むつごさん」から次の質問メールをいただきました。

当社(A社)は精密部品製造工場なのですが、部品を溶剤で洗浄しています。
この使用済みの溶剤は蒸留精製し再度溶剤として使用しているのですが、この精製工程をグループ会社のB化学工業(B社)に下請発注しようかと検討しています。

使用済み溶剤には汚れ分が混在していますから、精製した後には、溶剤として利用できるものと廃棄する「汚れ分(汚泥状態)」発生します。
この状態、すなわち再生溶剤と「汚れ分(汚泥状態)」どちらも排出工場である当社(A社)に再度納品してもらおうという計画です。
「汚れ分(汚泥状態)」については、当社の産業廃棄物として産廃処理業者に処理委託する予定です。
B社は産業廃棄物処理業の許可は取得していません。

B社への「精製工程の委託」は、産業廃棄物の処理委託ではなく、製造工程の下請と考えて問題ないでしょうか?

何をどこからどのように考えたらいいんでしょうか?

実は、こういった質問は古くからあり、BUNさんも悩んだ思い出があります。

記憶に残っている一番古い事例は「クリーニング店」で使用していたトリクロロエチレンです。
使用済みのトリクロロエチレンを引き取り、精製してもとの依頼会社に返却する。
まさにご質問のように「作業の一工程を下請に出している」だけではないか?
というものでした。

今回の質問と類似ですね。それで、どのように扱ったんですか?

当時検討した結果、得られる有価物も、排出する廃棄物も全量元の依頼者に返却するなら許可は不要では無いか、として扱いました。

製造工程の一工程の下請ですものね。感覚としては私もそれでいいのではないかと思うよ。

ところが、ダイオキシン騒動が起きたときに、「解体木くずを炭にする」という事業をやり出した者が現れました。

彼の主張は、解体工事の元請からは「木くずを炭にしてくれ、と依頼され、炭にしてあげて、その炭と併せて出てくる燃え殻を全て依頼者に返却する。」というものでした。
お分かりかと思いますが、廃棄物焼却炉の厳しい基準を逃れるための言い訳です。

廃棄物の焼却炉の基準は厳しいですからねぇ。
たしか、800度以上での焼却。出てくる排ガスを200度以下に急激に冷却。そのうえで、バグフィルターによる高度なばいじん除去・・・それが可能な構造の焼却炉であり、稼働させる限りは当然それが可能な維持管理が求められるんでしたね。

よく勉強しているね。そのとおり。だから、今や廃棄物焼却炉の建設費用は、1日に1トン燃やせる能力で1億円位なんじゃないかなぁ。

とすると、一日50トン燃やせる廃棄物焼却炉の建設費は50億円かぁ。

まぁ、いろんなノウハウもあるからピンキリだとは思うけど。
それに当然稼働すれば維持管理費もかかる。

なるほど。それで「うちのは廃棄物焼却炉じゃない。炭焼き窯だ。」と主張したい訳ですね。

この行為により、前述の「得られる有価物も排出する廃棄物も全量元の依頼者に返却するなら許可は不要」という理屈は通らなくなりました。

悪徳業者の脱法行為を防止するためには、しょうがないかもしれないけど、良心的にやってる会社にはあんまり厳しいことさせないで欲しいけどなぁ。

そうは言っても悪徳業者ほど勉強しているから、
「あっちの会社には許可不要として扱っているじゃ無いか」と主張されるからねぇ。

で、そうなると、質問のような行為はどのように考えたらいいの?

結局、総合判断説です。

総合判断説って、いつもBUNさんの話に登場してくる
「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「占有者の意志」という5つの要素を総合的に判断して、「物」は有価物か廃棄物か判断するってやつですよね。

そのとおりです。今回の質問は、さらに、行政処分指針に記載している「着手時点ごとの総合判断説」で判断するしかない、ということです。

ますます訳が分かんなくなるよ。具体的に解説してみて。

質問の事案を絵にしてみましょう。

Aさんから排出されるXをBさんが有価物であるYと廃棄物であるZに選別、加工し、
BさんはAさんから「加工賃」を受け取る、ということですよね。

「物」に注目すると、X→Y+Zになりますね。

汚れ分を含んだ使用済み溶剤→再生溶剤+汚れ分(汚泥)となりますね。

すなわち、Bさんは他者が排出したXを委託を受けて「加工、処理」するということになります。
ここで問題になるのは「Yになった時点」「Zになった時点」ではなく、Bさんが委託を受けたXの時点であることはわかりますよね。

汚れ分を含んだ使用済み溶剤を受け取る時点、ということね。

これがいわゆる「着手時点」なんです。
この着手時点で、Xが価値のあるものであれば、単なる加工業ですね。

もっと具体的に説明してみてください。

たとえば、Zの処分費に10万円かかるとしてもYが90万円で売れるものなら、Bさんはそれだけで80万円の利益が望めます。したがって、Xを50万円とか40万円で仕入れることも可能です。

汚れ分(汚泥)の処分費として10万円だとしても、再生溶剤が90万円で売れるなら、
原料である「使用済み溶剤」を50万円で仕入れたとしても、90-50-10=30万円の利益になるってことですね。

一方、Zの処分費に10万円かかるとして、Yが2万円でしか売れないものなら、Bさんはそれだけで8万円の損失が出てきますね。こんな状態となってしまう原料XをBさんは購入すると思いますか?

汚れ分(汚泥)の処分費として10万円かかるのに、再生溶剤が2万円でしか売れないなら、それだけで既に8万円の赤字ですね。
もし、仕入れに50万円かかっているとすれば、58万円の赤字になる。そんな取引は成立しませんよ。仕入れ値が0円、すなわちただで貰ってきても、その度に8万円の赤字になるんでしょ。

そのとおりです。つまりはこういうことなんです。
ご質問にある「使用済み溶剤」は、精製加工する前の状態で、この事案と利害関係の無い第三者が購入するような「物」ですか?それとも処理料金を取らなければ受け取らない「物」ですか?
前者なら単に「加工業の原料を仕入れているだけ」なので廃棄物処理法の許可は不要でしょう。
後者なら「他者の廃棄物を処理している」のだから処理業の許可は必要となりますね。

なるほど。そう言われればそのような気がしてきました。

ここまででは「取引価値の有無」に重点を置いて説明しましたが、この質問では「通常の取扱い形態」も大きな要因になる気がします。行政処分指針での総合判断説の「通常の取扱い形態」の解説でも、「市場性」について取り上げています。

どんなことでしょう?

質問ではA社とB社の2者間取引だけに注目していますが、もっと視野を広げて、C社、D社、E社と言ったプレーヤが存在していないかを見てみることです。
たとえば、A社のものだけでなく、C社、D社、E社から出される同様の「使用済みの溶剤」も買い取っているのか?といったことです。

同じような性状なのにC社、D社をはじめ100社、200社の「使用済みの溶剤」は処理料金を徴収していて、A社だけは買い取っている・・・なんていうのは、たしかに、なにか裏事情がある気がしますね。

有償買い取りは帳簿だけのことで、お中元やお歳暮の季節には菓子箱の底に100万円敷き詰めて贈っているとか。

「越後屋、おぬしも悪よのぉ」なんて、時代劇じゃ無いんだから、そんなことは無いとは思うけど。でも、まぁ、世の中で広く同じような物が売り買いされているかってことですね。

そうだねぇ。「その物だけ」「その当事者だけ」ではなく、広く社会で行われている行為なのかってことが「市場性」として一つの要因になってくるってことだね。

ふぅ~ん。「市場性」ねぇ。

なお、自治体によっては前述のように単純に判断せず、政治的、政策的要因を加味して判断しているところもあるかもしれませんし、もっと根本の「業とはなにか」「許可とはなにか」のレベルで判断する可能性もあります。

たとえばどんなケースが考えられますか?

たとえば、「排出者は1者だけで、その工場敷地内に処理施設があり、指揮監督権も排出者にある」などという要件を加味する等です。

A社の工場内でB社の社員も働いていて、「溶剤を精製する」という行程をB社が請け負っている、なんてパターンね。それはさらに難しいわね。
それはまた別の機会ってことにしましょうよ。

質問者のむつごさん、今日のところはこの辺でいかがでしょうか?
また、質問よろしくね。

<今回のまとめ>

  1. 「廃棄物の処理」を委託する行為は、まさに「処理委託」にあたる。委託する作業工程が「廃棄物の処理」ではないかがポイント。
  2. 「物」が廃棄物か有価物かは総合判断説により判断。
  3. 作業工程の委託の場合は、その委託する「着手時点」で判断する。
  4. 「着手時点」で廃棄物であるなら、受託者は処理業許可が必要。
  5. 1社だけの相対取引で、全量返還する場合や、同一工場内で、一連の作業工程の一部の工程のみ請負でやる場合など、判断が難しいケースもある。

アーカイブ