リヴァックスコラム

第22回 許可条件について考えてみよう

長岡 文明氏

みなさん、こんにちは。
「BUNさんに聞いてみよう」というコーナーでやっていきているのですが、
こんなメールをいただきました。

リヴァックスさんが、許可を取っていない地域で廃棄物が発生することになりそうなので、地元の業者さんから選択しようと思っています。許可証の写しをいただいたのですが、それが添付のものです。

ご覧頂くとおわかりのとおり、いろんな「条件」がついています。
中には、「こんなことが許可の条件なのかぁ」と感じる項目もあります。

廃棄物処理業の許可条件ってどのようなことでも設定できるのでしょうか?


今まであまり考えたことも無かったのですが、言われてみればおっしゃるとおりって思います。
BUNさん、どうなんですか?

よいところに気がつかれましたね。

許可条件は、単にその許可業者さんに制限を加えるというだけではなく、その業者さんとお付き合いしていく排出者、そして地域の住民にとっても深く影響してくる要因ですから、知っておかれるに越したことはないでしょう。

具体的にはどんなことでしょう?

許可条件は一般廃棄物では第7条第11項、産業廃棄物では第14条第11項で規定され、「許可条件違反」は事業停止(第7条の3第3号、第14条の3第3号)や許可取消(第7条の4第2項、第14条の3の2第2項)といった行政処分の対象になるのです。だから、なんでもかんでも許可条件にしてよいってことじゃないんです。最近では平成28年2月2日付けで通知が発出されています。(添付参照

なお、この通知に出てくる「許可事務通知」は改訂されて、最新は令和2年3月30日に発出されたものになります。関係箇所を紹介しておきます。

環循規発第2003301号
令和2 年3 月3 0 日
各都道府県・各政令市産業廃棄物行政主管部(局)長殿
環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課長
産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務等の取扱いについて(通知)

第1 産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業の許可について
6 許可の条件
法第14条第11項又は第14条の4第11項の生活環境保全上必要な条件は、申請者に対して、法に規定する基準を遵守させ、かつ、生活環境の保全上の支障を生じさせるおそれのないようにするための具体的な手段、方法等について、付すものであること。具体的には、例えば、収集運搬業については、その運搬経路又は搬入時間帯を指定すること、中間処理業については、中間処理に伴い生ずる排ガス、排水等の処理方法を具体的に指定することなどが考えられること。

なお、いつものことではあるけど、昨今の国の通知では都道府県への法定受託事務である産業廃棄物についてのみ取り上げています。

一般廃棄物については市町村の自治事務なので、立場上、国や県は「よそ様のこと」「治外法権」なので「権限が無い」「タッチできない」ってことでしたね。
でも、産業廃棄物とは違う独自の見解を示せる市町村は少ないので、一般廃棄物についても「ほぼ同様」と考えていいんでしたね。

じゃ、お願いします。


まず、法律条文に出てくる文言なんだけど「生活環境の保全上必要な条件」という表現です。

法律第14条第11項
第一項又は第六項の許可には、生活環境の保全上必要な条件を付することができる。

ここで「生活環境」とはなんぞや?それを「保全上必要」というのはどの程度のことなのか?
ってことになる訳ですね。

そのとおり。だから、質問者の<さくら>さんが提示してくれた許可証の「5条件(5)」の「その他、係員の指示に従うこと」なんて条件は論外ですね。

係員がある日ドライバーに「市民の印象が悪くなるから無精髭は剃っておいてね」と指示したのに翌日もひげ面出来たら「許可条件違反」となるのは、さすがにおかしいって感じるね。


(2)の「交通法規を遵守し・・・」という条件もいかがなものかって思うね。

そうだねぇ。酔っ払い運転やスピード違反は、そりゃ、悪いことだけど、それは道路交通法という別の法律があるわけだし、それを「許可条件違反」とするのも、またおかしい気がする。


法令の規定から行くと(1)の廃棄物処理法を遵守しろ、という条件もおかしいでしょ。

あたりまえすぎで気がつかなかったよ。無許可行為や不法投棄はそれぞれに別条分で規定していて、罰則の規定も違う訳ですよね。無許可行為、不法投棄、マニフェスト、届出、処理基準違反、全て「許可条件違反」とするのもバランスに欠けるよね。

そもそも、法律は守ってあたりまえ。ましてや、廃棄物処理法で規定している廃棄物処理業の許可の条件として「廃棄物処理法を守りなさい」はおかしいよね。


でも・・・、となると、他法令で規定されていることを廃棄物処理法の許可条件にするのはおかしい。それはその法律で守らせるべきもの。
一方、廃棄物処理法の法令条文にあるのは遵守してあたりまえ。条件になどする必要は無い。となる訳よね。じゃ、どんなことを許可条件にするのが「ふさわしい」「妥当」ってなるのかな?

そこで、登場するのが「通知」ですね。じゃそれを確認してみよう。

まず、1.に「具体的な手段、方法」と書いていて、2.に当然ながら法律に規定している「生活環境の保全を旨として」として、「技術的な熟度」、「効果の程度」、「信頼性」、「実行可能なより良い技術の採用」といった観点で検討して、「実効性の観点」から付けるんだと述べている。
さらに3.として「地域の自然的・社会的状況」を適切に勘案しろと書いてある。

ん~、「実現不可能な内容にはするな」ってことだけはわかるけど、それ以上は文字は並んでいるけど、偉い誰かの演説の「安心・安全」みたいで、結局なにを言っているかわかんないよ。

そうだねぇ。これだと、むしろ許可事務通知の表現の方がわかりやすいね。

この部分よね。

具体的には、例えば、収集運搬業については、その運搬経路又は搬入時間帯を指定すること、中間処理業については、中間処理に伴い生ずる排ガス、排水等の処理方法を具体的に指定することなどが考えられる

実は廃棄物処理法条文で規定する「処理基準」では「運搬経路」、「搬入時間帯」、「排ガス、排水等の処理方法」は規定されていない。

つまり、条文では規定されていないレベルの、そしてその基準を遵守できる「やり方」などが許可条件としてふさわしいってことになる訳ね。


もう一つ、「許可条件」では注意しなければならないことがある。これもさっき紹介した「許可事務通知」に記載してあることなんだけど、その部分を抜粋してみよう。

第1 産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業の許可について
11 許可証の交付
(1) 産業廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業の許可証(中略)の「事業の範囲」の欄に記載する産業廃棄物の種類の具体的記載については、処理業者が関係者に対し、取り扱う産業廃棄物の種類を明確に示すことができるように、次の例により行うこと。(以下中略)
(3) 許可証の「許可の条件」の欄は法第14条第11項及び第14条の4第11項の「生活環境の保全上必要な条件」を記載するものであり、許可証の「事業の範囲」に記載すべき内容を「許可の条件」として記載してはならないこと。

「事業の範囲」については、基礎講座で教わったよ。許可証の上1/3位のところに記載してある部分よね。

そうだね。許可証では最も大事なところと言っていいと思う。すなわち「何について許可されているか」って部分だからね。

たしか、「扱ってよい品目とその処理方法」が「事業の範囲」でしたね。たとえば、「廃プラスチック類の破砕」とか「汚泥の脱水」とかいうものでした。
あっ、それから収集運搬については、「積替保管の有無」が「事業の範囲」だったかな。

正解。この「事業の範囲」に関することを「許可の条件」に書いちゃだめなんだ。と言うのは、理由の一つとして、「違反条項が異なる」「罰則が異なる」ってことがあるね。

なるほど。「品目違い」は無許可変更に該当して、罰則としては最高刑懲役5年でしたからね。

この要素で質問者のさくらさんが提示してくれた許可証をもう一度見てごらん。

(3)の「びん、缶、ペットボトル」、(4)の「特別管理一般廃棄物」なんかは、明確に「品目」ですよね。

そうだねぇ。もし、こういった「品目」を扱っていたなら、それは「条件違反」なんてもんじゃなく「無許可」、正確に言うと「事業の範囲の無許可変更」かなぁ。
ただ、この許可証自体、もっと根幹的な矛盾があるんだけど、その話をし出すと終わらなくなっちゃうから、それはまたの機会にしておきましょうか。

結論を言っちゃうと、質問者提示の許可証の「許可の条件」は5つ全て「廃棄物処理業許可条件としてはふさわしくない」ってなっちゃうね。

そうだよねぇ。許可証は許可業者だけが見る時代じゃなくなり、情報公開を求めれば住民だって見れる。この許可証を見た住民が「あの業者は地域住民に迷惑をかけている。許可条件違反として許可取り消せ」なんて市役所に申し入れされたら、市役所は困っちゃうね。

通知でも「運搬経路又は搬入時間帯を指定すること」は「生活環境保全上必要な条件」としている。でも、それを具体的に示さず「地域住民に迷惑」なんて、あやふやな表現じゃだめだよね。ましてや、他法令である「交通法規を遵守」なんて文言は「蛇足」ってもんだね。

じゃ、復習を兼ねて確認します。質問者提示の許可証の許可条件。

(1)は廃棄物処理法で規定する許可の条件として、「廃棄物処理法を遵守せよ」はおかしい。遵守して当然。守っていないなら「条件違反」ではなく、その規定違反として対応するべき。

(2)他法令を遵守することは、その法令でやるべきこと。廃棄物処理法の許可条件に記載するのはおかしい。「地域住民に迷惑」といった、あやふやな表現は避けるべき。

(3)(4)は「事業の範囲」に関わることであり、「許可条件」としてはいけない。

(5)は極めてあやふやで行政担当者の裁量権が無限大となってしまう。

と、なって、結局、この許可証の「許可条件」は全て「廃棄物処理業の許可条件」としては「おかしい」となっちゃいました。

そうですねぇ。万一、この業者が不始末を犯して行政処分をしなければならなくなった時、こんな許可証を出していると正当な処分も出来ないって事態になりかねないから、許可証を出す行政も勉強して改善していかないといけないですね。

許可を受けている業者さんも、業者に処理委託する排出者も、そして関係する住民の方々も、許可証を見て理解不能な条件を付けられていたら、「これってどういうことですか?」「どういう状況は許可条件違反なんですか?」って確認することも大切だよね。

それにしても、平成28年の「許可条件通知」は正直言って、ほとんど参考にはならず、結局は「許可事務通知」を読まないとわからないってことになっちゃいましたね。

まぁ、こういった「通知」は他にもあると思うので、通知の中に登場している他の通知や条文はちゃんと確認しておくことが大事ってことかな。

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