リヴァックスコラム

第8回 「個別事案の疑義照会について」

長岡 文明氏

このメルマガも連載8回を迎えました。今までは、有名な通知を取り上げてきましたので、一度は聞いたことがあるという方も大勢いらしたことと思います。

今回は、「それほど一般的じゃないかも知れないけれど」というものを取り上げてみたいと思います。
役所からの「通知」はいろんな面を持っているわけですが、今まで取り上げたのは、法令が改正された時に出される「施行通知」や、国が広く国民に知らしめしたいという「ガイドライン」「マニュアル」「指針」というものでした。

今回紹介するのは、これとはちょっと違った意味合いのものです。
国としては、それほど「広く国民に知らしめしたい」というレベルではないのですが、廃棄物処理法を現場で担当します都道府県、市町村という自治体、また、何かしらの事件が起きて、法令の適用関係を確認せざるを得ない警察や検察から、法令の制度設計者である国(廃棄物処理法に関しては環境省ですね)に、「これはどうなの?」という、いわゆる疑義照会を行う場合があります。

これを「疑義照会通知」と呼んでいるのですが、これは「そのケースにしか当てはまらない」といい「一件審査」の場合もありますが、逆に、「この疑問はもっともだねぇ。この機会に他の自治体にも知らせておこうか。」という汎用性のある疑義照会もあります。
前者のケース、特に警察や検察からの照会は、それ以降の裁判に関わることもあり、非公開となり国と照会者だけが知り得る通知もあるのですが、後者の場合は原則的には公開される場合が多いようです。
しかし、この場合も注意しなければならないのは、その「照会」は、個別の事案により照会していますから、回答通知はどこまで汎用性を持たせられるかは、自治体や関係者に任せられることになります。

まず、一例を示してみましょう。

次のアドレスに掲載されていました。

http://haiki.biz-houmu.com/demo/tsuuchi/02/H16_03_01.html

このアドレスは今までの通知の照会と違い、民間の方がアップしているもののようですが、内容的に相違ないことをBUNさんが確認しています。

ちょっと、道草になってしまいますが、こういったマニアックな通知を探したいという方にお勧めなのは、以前も紹介しましたが、日本環境衛生センターから出版されています「廃棄物処理法の解説」を活用ください。これには、現在までの廃棄物処理法にかかわる公開されている通知のほとんどは掲載されています。
特に、平成17年版からはCDも付けましたので、検索にもとても便利です。(ちなみに、この平成17年版と、最新版の24年版の編集にはBUNさんも関わらせていただきましたので、自信を持ってお勧めします(^o^))
もちろん、この通知もCDに登載しています。

参考事例を説明したいので、ちょっと長くなりますが、通知全文を次に掲載してます。


<参考事例>

平成16年3月1日環廃産発第040301009号
各都道府県・各政令市産業廃棄物行政主管部(局)長あて
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長
標記について、別添のとおり当職あて照会のあったところ、別紙のとおり回答したところであるので了知されたい。

平成16年2月17日 環政第94号
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長あて 富山県生活環境部長
廃棄物の処理及び清掃に関する法律の解釈上の疑義について(照会)
このことについて、下記のとおり疑義が生じましたので、ご回答くださるようお願いいたします。
 
発電所の定期検査等において、取放水路等の清掃を実施する際に、貝や海草、水路に堆積した様々な沈殿物等が混合して泥状を呈した物が排出される。
このような泥状物について、これに含まれる貝や海草を容易に除去し得ないような場合、総体として産業廃棄物である汚泥と解してよいか。

平成16年3月1日 環廃産発第040301007号
富山県生活環境部長あて 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長
廃棄物の処理及び清掃に関する法律の解釈上の疑義について(回答)
平成16年2月17日付け環政第94号をもって御照会のありました標記について、下記のとおり回答いたします。
 
貴見のとおり解して差し支えありません。

時系列的には、通知年月日をみていただければわかりますが、まず、平成16年2月17日に富山県の部長から環境省の課長宛の「照会」が出されました。
次に平成16年3月1日に環境省から富山県宛に「回答」したのですが、この内容が前述の通り、「広く世の中にお知らせしていた方がいいだろうなぁ」ということで、掲載としては一番上になっています第040301009号の各都道府県・各政令市あての通知となった訳です。

折角ですから、内容も見てみましょうか?

まず、「富山県ではどうして国に聞かなければならなかったか?」です。
どんな疑問点があったのでしょう?(※この疑問については、国や富山県が解説している訳ではないので、あくまでもBUNさん個人の推測となります。)

まず、結論ですが、「物は廃棄物処理法の適用を受けるか?」「受けるとした場合、動植物性残渣か汚泥か?」という点でしょう。

「物は廃棄物処理法の適用を受けるか?」という点については、実は廃棄物処理法がスタートした直後の昭和46年10月の施行通知に「港湾、河川等のしゅんせつに伴って生ずる土砂その他これに類するもの」は、「廃棄物処理法の対象となる廃棄物ではない」と記載しています。
そのため、「取放水路等の清掃」という行為は「河川等のしゅんせつ」とは違う行為であるか?を確認したかったのだと思われます。

次に、「貝や海草、水路に堆積した様々な沈殿物等が混合して泥状を呈した物」ですが、形容詞をつけずに「貝や海草は廃棄物とすれば何に該当するか?」と聞かれれば、産業廃棄物20種類の分類では、疑うことなく「動植物性残渣」でしょう。
ところが、「様々な沈殿物等が混合して泥状を呈した物」であり、かつ「容易に除去し得ない」状態になっている。
もし、これで「動植物性残渣である」と回答されれば、動植物性残渣には排出業種の指定がありますから、この形態で排出されれば一般廃棄物になってしまいます。
そうなると、「他の汚泥状物は産業廃棄物」「貝と海草は一般廃棄物」、取り扱える業者や受け皿は変わりますよ。分けて出してください。となってしまうわけです。

そこで、困ってしまって、法令を作った責任者である環境省に確認した訳です。

こういった疑義照会文書は、「なにがなんなのでしょう?」のようには聞きません。事前に十分に担当者同士で文案を詰めてのこととなると思いますが、「私はこのように判断しますが、これでいいですか?」のように聞くんですね。
これを受けて環境省は「貴見のとおり」、すなわち、「あなたのお考えの通りでいいですよ」と答えたわけですね。

そして、こういった事案で全国の自治体も困っているんじゃないか、また、自治体によって判断が大きく違っても困る、ということで、「今回、こういうやりとりをしたから、あなたも知っててね」と全国の自治体に向けて富山県と環境省のやりとりをそのまま、通知したってことになる訳です。
さて、この通知をご覧になったみなさん、どのように思いましたか?

「こりゃ、いいこと聞いたわい。混ざっていれば、1種類の産廃として取り扱っていいのか。マニフェストが簡単にできるわい。」なんて安易に考えてはだめなんです。

というのは、ここが「一件通知」の難しさなのですが、この通知で環境省が全国に向けてお知らせしたのはあくまでも、富山県の問い合わせがあった「この事案」についてだけなんですね。
前述の通り、この事案はいろんな形容詞、すなわち、条件、状況が限定されていましたね。 「発電所の定期検査等」「取放水路等」「清掃」「貝や海草」「水路に堆積」「沈殿物等」「混合」「泥状を呈した物」「容易に除去し得ない」「総体として」「汚泥」、これらの条件を全て満たすケースは、まさにこのケースしか無いでしょう。

これをどこまで汎用性を持たせるか、各所に登場する「等」とはどこまで含まれるか?などなど、現場の行政に判断を任せている要素は多いのです。
文句を付ける気になればいくらでも可能です。「貝や海草はいいけど小魚はだめなのか」とか「容易に除去し得ない、とはザルですくって分別できるようなら該当しないのか」とかですね。
でも、まぁ、この通知(他にも昔から似たような疑義応答はあるのですが)のおかげで、「容易に除去し得ないような場合、総体として」扱うという運用はあり得るんだ、ということはわかりますよね。

疑義照会通知はこのように、数多くを読み込んで「拳骨の握り具合」を習得していく格好の勉強材料でもあるんですね。

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

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