リヴァックスコラム

第7回 「産業廃棄物管理票制度の運用について」

長岡 文明氏

今回は、質問も多い「産業廃棄物管理票」、いわゆる「マニフェスト」に関する通知を取り上げてみました。
この通知は、平成23年3月17日に発出されていまして、次のアドレスで原文を見ることが出来ます。

https://www.env.go.jp/hourei/add/k033.pdf(環境省HPリンク)


1.通知の背景

管理票は、産業廃棄物特有の制度で、一般廃棄物にはこの規定はありません。 そのため、廃棄物処理法では単に「管理票」ということにしています。(第12条の3第1項)

この制度は、平成4年からスタートしました。当初は特別管理産業廃棄物だけに適用する制度であったことから、特別管理産業廃棄物を規定している第12条の2の後の条文、第12条の3に規定しています。その後、平成9年からは普通の産業廃棄物にも適用され、平成13年からは、いわゆる「二次マニフェスト」と呼ばれています「中間処理産業廃棄物」の最終処分(いわゆるE票)の規定も出来ました。ちょうど、大規模不法投棄や硫酸ピッチの不法投棄等、悪質事案が世の中を騒がせた時期と言うこともあってか、どんどんどんどん厳しい規定を追加してきました。

制度スタート時は、「虚偽の管理票を交付すると罪になるが、 そもそも管理票を交付しなければ罰則は無い」とか、直近の改正でようやく改正したものには、「管理票を交付しない排出事業者は罪になるが、管理票を交付されない産業廃棄物を受け取った方の業者には罰則は無い」と言った、矛盾と言いますか、「網の穴」とも言うべき、制度の欠缺(けんけつ)がありました。

こういった「穴」をパッチワークのように塞ぐ制度を作ったからでしょうか、電子マニフェスト制度や「勧告・命令」を規定した第12条の6まで、マニフェストの規定は、「3段法令集」では、今や、10頁を超える分量になってしまっています。 しかし、細かくすればするほど、法令の規定と現実のギャップは見えてくるものなのかもしれません。

そのギャップを埋めるために発出されているのが、この「通知」とも言えるでしょう。


2.法令規定と現実のギャップ

あえて、制度設計者(法律を作った人、具体的には環境省の担当課、担当者)に刃向かうつもりはないですし、法令の抜け道をお伝えするつもりは毛頭ありませんが、世の中に結構知られているいくつかの矛盾を挙げてみましょう。

まず、管理票の「様式」です。
最近は、申請者、届出者の自主性を重んじて、「申請事項」「届出事項」は規定しているが、様式は規定しない、という例も数多く見られます。
でも、現実的に申請書、届出書をどのように書いていいのか、一から模索しなければならないのは結構な仕事なので、むしろ、様式を示してもらった方が、一般人としては助かるって言うのも事実です。

廃棄物処理法は省令により、具体的な様式を規定しているものがほとんどなので通常、様式を規定した限りは、「そのとおり」にしなければなりません。
皆さんの中にも、なにかの定期報告などを自身で自由に作成したものを、役所に提出したら「様式が違う」と言われて、受け付けてもらえなかった、なんて経験をお持ちの方もいらっしゃるのでは。
産業廃棄物管理票については、「省令様式第2号の15」で様式が規定されています。本来なら、「この様式通り」でなければだめのはずです。
ところが現実は、皆さんご存じの通り、全産連や建設九団体が発行する「建設系廃棄物マニフェスト」は、「様式通り」ではありませんが、環境省も特段のクレームを入れることなく世の中に流通しています。

ちなみに、皆さんはいわゆる「A票」から「E票」まで、全てを「産業廃棄物管理票」だと思っていませんか?
実は、産業廃棄物管理票の原票は1枚だけです。 この原票は法律の条文を順番に読んでいくとわかりますが、最終的には処分業者の手元に残る、いわゆるC票です。それ以外は全て「写し」なのです。 たとえば、第12条の3第9項を見てみると・・・

第十二条の三
9 運搬受託者は、第三項前段の規定により管理票の写しを送付したとき(同項後段の規定により管理票を回付したときを除く。)は当該管理票を当該送付の日から、第四項後段の規定による管理票の写しの送付を受けたときは当該管理票の写しを当該送付を受けた日から、それぞれ環境省令で定める期間保存しなければならない。

ね、「写しを送付」というように書いてありますね。

元々の排出者が原票を準備する。産業廃棄物を収集運搬業者に渡すときに、同時に「原票」を渡すのですが、そうすると排出者の手元には何も残らなくなるので、原票をコピー(写し)して手元に置くわけです。
収集運搬業者は処分業者に運び込み、産業廃棄物を引き渡すわけですが、この時同時に「原票」を渡すのですが、そうすると収集運搬業者の手元には何も残らなくなるので、原票をコピー(写し)して手元に置くわけです。
そして、処分業者は無事に処分が終了したら、その旨を原票に追記して、コピー(写し)をとって排出者へ返す。結果として原票は処分業者の手元に残るわけです。
法律条文には、まさにこのようにすることを規定しているんですね。

だから、省令様式の産業廃棄物管理票を準備して、前述の通り、本当にコピー機械でコピーを取って、次に廻すって行為が本来のやり方なんです。

もう一つ。法令規定と現実のギャップの例を。それは区分分割収集運搬委託です。

たとえば、X港に積替保管施設があるとします。排出者からXまでは陸送で甲の収集運搬業者が運び、Xからは乙の海運収集運搬業者が運ぶとします。このパターンの場合、排出者は排出元からX地点までは甲と、X地点から次の地点までは乙と収集運搬契約を締結することになります。

法令では、排出事業者は「産業廃棄物の引き渡しと同時に運搬を受託した者に対し、管理票を交付しなければならない」(第12条の3第1項)と規定していますから、前述の例では、甲はもちろんながら、乙にも「産業廃棄物の引き渡しと同時に運搬を受託した者に対し、管理票を交付しなければならない」となりますね。
排出者が、わざわざ港の桟橋まで出向き、改めて管理票を船舶会社に交付するなどと言うことは、まずやっているところは無いでしょう。
ほとんどの場合は、通常の収集運搬業者から中間処理業者に引き渡すときと同じように、管理票は「甲」収集運搬業者を経由して、「乙」収集運搬業者へ「回付」しているのが実態でしょう。先に紹介した全産連では、「区間分割収集運搬委託時のマニフェスト」として、複写枚数をさらに増やした「積替用」を準備している位です。

まぁ、このように法令で厳密に規定したからと言って、現実にはそのとおり実行するのは、相当困難だと言うこともある訳ですね。そういったギャップを埋めるのも「通知」の役割と言えるのではないでしょうか。

この通知では、管理票の交付を真の排出者がなかなかやりにくい時の例示として、農業用廃プラスチック類(ビニールハウスの廃棄)の農協、雑居ビルでのビルの管理者などの例示も記載しています。


3.有価物の拾集

この通知で注目すべきもう一つの点が「有価物の拾集」です。聞くところによれば、廃棄物処理法はその名称の通り、廃棄物に関するルールなので、それ以外のことを規定するのは「治外法権」というか、本来的にはできないらしいのです。
だから、法律では有価物のことは規定できない。政令の委託契約書の項目にも挙げられず、なんとか、かんとか、管理票の様式の中に潜り込ませた、という真偽の程はよくわかりませんが、曰く付きの事項です。でも、これは当時の環境省のクリーンヒットだとBUNさんは思っています。

「有価物の拾集」はなにかと問題になるときが多い行為です。それは2つの要因があります。
一つは、途中で引き抜くわけですから、排出者から搬出されるときの量と処分業者が受け入れるときの量が違ってきます。この差が不法投棄によるものだったりしたら大問題です。
もう一つは、「金」の点です。排出者は「売れないからこそ」処理料金を払ってまで、業者に委託する訳ですが、それが途中で有価物になって「金」になる。じゃ、売り払って得た「金」は誰のポケットに入るのがふさわしいのか?「金」は何かとトラブルの原因となります。

これらのことから、本来なら、委託契約書の法定事項にも盛り込んでもおかしくない事項だと思うのですが、現時点では前述の通り、マニフェストの中の「運搬受託者の記載事項」としてのみ規定されている事項です。


4.現実容認

2.の「法令規定と現実のギャップ」と同じ事かも知れませんが、制度は規定したものの、現場を見たら、こりゃ絶対出来ないわ、という事態も出てきたのだと思います。 条文では

「〈種類〉は、法第2条第4項及び令第2条に規定する産業廃棄物の種類を原則とし、その旨を記載しなければならない」

としていますが、「複数の産業廃棄物が発生段階から一体不可分の状態で混合しているような場合には、その混合物の一般的な名称を記載して差し支えないこと。」ということで、現実を容認した形となっています。

法令の杓子定規ではなかなか動かない規定を、「通知」により運用している典型的な例かなぁと思っています。

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

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