リヴァックスコラム

第22回 「手ばらし疑義」について

長岡 文明氏

<前述>

今回取り上げる「通知」は、平成15年2月13日に発出された「廃棄物の処理及び清掃に関する法律適用上の疑義について」ですが、世間一般にはあまり知られていないものかもしれません。
日本環境衛生センター刊行「廃棄物処理法の解説」には掲載しているのですが、インターネット上では私が検索した限りでは、環境省のホームページはじめ掲載しているところは無いようでした。

しかし、この通知は実際にリサイクル事業を展開している人にとっては、極めて重要な内容になっています。

この題名の通知は数多くあるものですから、廃棄物処理法の世界では、「手ばらし疑義通知」と呼称しています。
ちなみに、「廃棄物処理法の解説」はオフィシャルな解説集なので、このコラムを読まれているレベルの事業所では1冊は常備していてもよろしいかと思います。

<本題>

さて、本論に戻りまして、以前(第5回)紹介した「許可の取り扱いについて」という通知の中でも書いていることですが、処理業の許可というのは、「事業の範囲」というものが重要です。
なぜかと言えば、この「事業の範囲」を逸脱すれば、「無許可変更」となるからです。

この「事業の範囲」というのは、「産業廃棄物の種類」と「産業廃棄物の処理の方法」がこれに該当します。
たとえば、「汚泥の焼却」の許可を持っていたとしても、「廃プラスチック類の焼却」は出来ません。これは「産業廃棄物の種類」が違っているからです。
同様に、「汚泥の焼却」の許可を持っていたとしても、「汚泥の脱水」は出来ません。これは「処理の方法」が違っているからです。 今回の「手ばらし疑義」に関係するのは、この「処理の方法」についてです。

さらに、もっと単純に「処理してやるよ」と言って、排出者から廃棄物を預かってきたのに、なんの手も加えずに、そのままスルーしてよいのか?と言うことにも繋がっていきます。
素直に前述の文章を読んだ人は、「そんなこと許される訳ないじゃない。そもそも、なんの手を加えなくても済むような<物>を廃棄物処理業者に委託するの?」と思われたでしょう。
ところが、こういったケースは、しばしば見られ、それは廃棄物処理法の中でも「容認」されているんですね。 その一例が「有価物の拾集(じゅうしゅう)」といわれる行為です。
この言葉はマニフェスト(産業廃棄物管理票)の様式にのみ登場します。(省令第8条の21第2項を受けた様式第2号の15)

具体的にどういうことかと言えば、たとえば、建築物の解体廃棄物(いわゆる建設混廃)の処理を委託した。ほとんどは木くずやがれき類であるが、中にアルミサッシが入っていた。
「これは取り置きしておいて、後でまとめて金属商に売り渡せる」、として、収集運搬業者や中間処理業者が「抜き取り」したとしますね。
これが「有価物の拾集」です。アルミは抜き取れて以降は有価物として流れて行きますね。
だから、この「抜き取られた」時点で、廃棄物を卒業した、すなわち、廃棄物処理法の適用がなくなる訳です。

さて、この「抜き取り」行為ですが、良いことでしょうか?悪いことでしょうか?
以前(と、言っても、平成4年以前ですが・・・)は、排出者が「これを処理してくれ」と委託した限りは、委託を受けた処理業者が「これ売れるよなぁ。これオレ欲しいなぁ。」と思っても、排出者が処理を委託した限りは「そのとおり」の処理ルートに乗せなければ、いけないことだという認識でした。この考え方は、現在でも「民事上、甲と乙は契約書の内容どおりに業務を遂行しなければならない」という意味では、間違ったことではありません。

ところが、平成3年の法律改正(平成4年施行)で、廃棄物処理法の目的に「再生」という文言が登場しました。
「有効に活用される資源を、むざむざ焼却や埋立地行きにしなくてもいいじゃないか。」ってことですね。この点だけに注目すれば、地球に優しい、推奨される行為となる訳です。

ここで課題になったのが、前述の「じゃ、法令上どうなんだろう?無許可や委託・受託規定に抵触するんじゃないだろうか?」ということです。
ここまでが、比較的わかりやすい「廃棄物→有価物」のパターンですが、さらにややこしい事案があります。それは「廃棄物→廃棄物」のパターンです。

排出者からは「破砕してくれ」と委託された。ところが、破砕しなくても十分に細かい状態の物もある。そのような物は破砕機を通さなくても、「破砕済み(処理済み)」としてよいか?それとも、やっぱりとりあえず破砕機は通さなければならないのか?という疑問です。
たとえば、ビルを解体して出てきた「コンクリートがら」を「40ラン(直径4センチ以下)の再生骨材になるように砕いてくれ」という注文(処理委託)を受けた。ほとんどは破砕機にかけて砕いたが、中には破砕機に投入するまでもなく既に4センチ以下になっている欠片(かけら)もある。この欠片も破砕機を通さなければいけないの?投入したって、通り抜けるだけだよねってことですね。
ここまではご理解いただけましたでしょうか?

<解説前の注意点>

やっと、今回の通知そのものの解説とまいりましょう。
本論に入る前に、ちょっと注意事項を。現在は廃自動車については自動車リサイクル法が制定され、他にも家電リサイクル法等も制定、施行されていますので、最後に記載している、照会回答にて、こういった「各種リサイクル法適用廃棄物以外の廃棄物」が対象になると考えてくださいね。
さらに、この照会回答内の図に「事業者A」とありますが、これは「許可業者(解体業者)」と読み替えてください。(廃棄物処理法では「事業者」とは通常、「排出事業者」を指し、許可業者は「業者」と表現しますので、この図はその意味ではちょっと誤解を生みます。)

<通知の解説>

さて、この解体業者Aは<おそらく>廃プラスチック類の破砕機を導入し、「廃プラスチック類の破砕」という中間処理業の許可を取得しているとものと思われます。
なお、通常の家電製品が廃棄物となった場合には、その材料等から判断して、ほとんどの自治体では「廃プラスチック類、金属くず、ガラス陶磁器くず」の3品目として扱っていますから、「廃プラスチック類の破砕」の他にも「金属くず、ガラス陶磁器くずの破砕」の許可も取っている可能性も大きいです。
この解体業者Aが(たとえば)廃プリンターの処理を委託されていた。破砕機にかける前に、ドライバーやペンチで分解した。すると、筐体(外枠、プラスチック類)の他に金属のネジやボルトも分別されて出てくる。表示板に使用していたガラスも出てきた。

そこで、1①の疑問。
ネジやボルトは有価物として売却できる。(でも、本来の処理委託行為である「破砕」はしないね)
廃プラスチック類はこの状態で売却できる物は売却するけど、残りは「原則通り」、破砕機で破砕する。
ガラスくずは、破砕して廃プラスチック類とぐちゃぐちゃしてしまうより、別のガラスくず専門業者に処理を委託する。(つまり、本来の処理委託行為である「破砕」はしないけど)
実際に破砕機にかけずに、その前段階の「分解」だけで有価物に変わってしまったり、破砕していないんだけど「破砕処理残渣物」という扱いにしていいですか?

これについて、環境省は、「それでいいよ」と回答した。

次に1②の疑問。
破砕機にかけるつもりで、その前段階の「分解」をやったところ、全部、有価物か他社への委託物になっちゃった。
これだと、結果としては、「破砕」という中間処理を全くしてないよね。以前(昭和の年代の古い疑義回答)の回答としては、「収集運搬に伴う手選別等の取り扱い」という通知の中では、収集運搬業の許可でよいとしている。(詳細は、拙著「どうなってるの?廃棄物処理法」参照のこと)

この形態は、まさにこれに当たる訳なので、「積替・保管を含む収集運搬業の許可のみを取得すれば良いか。」と聞いたところ、これも、環境省は、「それでいいよ」と回答した。

さらに、「2」の疑問。
じゃ、「ドライバーやペンチで分解」すらせずに、単に「選別」しただけで、「1」と同じような状態になってしまうようなパターンでも、「1」と同じように考えて「中間処分の許可のみ」でいいんでしょうか?と聞いたところ、これも、環境省は、「それでいいよ」と回答した。

これが、今回取り上げた「手ばらし疑義」の内容です。
廃棄物処理業界に詳しい方は、「なぁ~んだ。うちの会社でも同じ事やってるよ」とか「うちが委託している会社でも同じ事やってたよ。それって問題あったの?」って思われた方も多いかも知れません。
でも、改めて考えてみると、この行為は冒頭で書いたとおり、「破砕してくれ」と委託されたにもかかわらず、全く「破砕していない」訳ですね。

「処理していない」のに「処理した」としていいか?と言うのですから、許可権限者としては相当に抵抗のある行為です。
しかし、実態を考えれば、本来の目的、意図は達成されている。既に細かくなっている物を、それ以上細かくできないし、する必要もないのに、「破砕機を通さなければならないのか?」と言われれば、「そこまでは必要ないでしょ」と答えるしかないですよね。

ただ、この通知、運用はかなりのリスクをはらんでいます。
まず、そもそも、「破砕の許可」が無ければ、破砕を前提として、産業廃棄物を受け取ることはできません。ですから、あくまでも委託される時点では、破砕することが前提なのです。でも、人の頭の中まで見ることはできませんね。

ちなみに、破砕の許可が無く、結果として破砕行為は行わなかったとしても、「破砕を前提として産業廃棄物を受け取った場合」は、無許可受託(または無許可変更受託、廃棄物処理法第15条第15項違反)となりますし、「最初から他社に処理を再委託させる場合」は再委託となり、正規の手続きを踏まなければ第15条第16項違反となってしまいます。
さらに、前述したとおり「甲と乙の民事上の契約」の要因も出てきます。いくら、廃棄物処理法では合法としても、契約は甲と乙が納得したやりかたでなければ成立しません。

このように、この通知は循環型社会推進のためには必要なことではあるのですが、一方で「許可制度」「事業の範囲」「契約事項」という面では、いろんな制約が出てきます。
このような行為や、こういった事業形態の業者に委託している排出事業所さんは、処理フローを確認しておくとともに、疑問があったら行政の窓口担当者に相談してみることも必要かも知れませんね。

<照会回答>

廃棄物の処理及び清掃に関する法律適用上の疑義について

平成一五年二月一三日
環廃産第九〇一二号
各都道府県知事・各政令市産業廃棄物行政主管部(局)長殿
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長
廃棄物の処理及び清掃に関する法律適用上の疑義について

標記について、別添のとおり当職あて照会のあったところ、別紙のとおり回答したとこであるので了知されたい。


平成一四年一二月一一日
産廃第九五五号
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長様
千葉県環境生活部長
廃棄物の処理及び清掃に関する法律に係る疑義について(照会)

 廃棄物の処理及び清掃に関する法律に係る事項について、別紙のとおり疑義が生じましたので御教示くださるようお願いします。

1 廃自動車、中古パソコン等の解体業者に係る許可について
廃自動車、中古パソコン等(以下「廃品」という。)の解体業者は、廃品を次の①②の形態により処分している。

① 排出事業者から廃品を搬入し、分解後、再利用可能な部品を売却、残りのうち場内で処分できる部分を中間処分、処分できないものを他者に委託する。

② 分解後、処理施設は一切通さず、すべて売却及び処理委託する。

①については、受託内容たる処分を実施するための前処理として、分解を行い、売却できるものは売却し、自らが処分できないものは事業者Bに委託するものであるが、この場合、事業者Bに委託する廃棄物についても事業者Aが処分した後の産業廃棄物(中間処理産業 廃棄物)との理解で良いか。前記のとおり解される場合、事業者Aは中間処分の許可のみ取得すれば良いか。

②については、分解や選別は「物理的、化学的又は生物学的な手段によって変化を与える行為」には該当しないため処分には当たらず、搬入したものを処分せずにすべて搬出しているため、積替・保管を含む収集運搬業の許可のみを取得すれば良いか。

2 混廃の処理に係る許可について
混廃を搬入し、選別後に一部を処分、残りを売却及び処分委託する場合は、前述1と同様(分解が選別に置き換わるだけ)と考え、中間処分の許可のみで対応できるものと解してよろしいか。


平成一五年二月一三日
環廃産第九〇一一号
千葉県環境生活部長殿
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長

廃棄物の処理及び清掃に関する法律に係る疑義について(回答)

 平成14年12月11日付け産廃第955号をもって御照会のありました標記について下記のとおり回答いたします。

貴見のとおり解して差し支えない。

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/