リヴァックスコラム

第6回 【番外編】読者からの質問

長岡 文明氏

みなさん、こんにちは。
いつも、コラムにお付き合いいただきありがとうございます。

前々回、前回と「ペットボトル通知」について取り上げたのですが、これについて読者の方から質問をいただきました。

いただいた質問にBUNさんから見解を頂きましたので、今回はそれを紹介していきたいと思います。質問者は<むつご>さんです。

それではしばらくの間、むつごさんとBUNさんのやりとりでお楽しみください。




前回まで取り上げていた「ペットボトル通知」とBUNさんの新著「対話で学ぶ廃棄物処理法」、特にペットボトル通知と関係の深い3章を読みました。

 

そこでいくつか疑問点がありますので、教えて下さい。

まず、本来、廃棄物処理法の不文律として、「処理する前に既に一般廃棄物であった場合は、それを処理した後に残る<残渣物>は一般廃棄物である。」という「オリジン説」は以前から聞いておりました。

この理論が無いと、「一般廃棄物を焼却炉で燃やして残る<燃え殻>は、事業活動を伴って発生した廃棄物となり、したがって、産業廃棄物となってしまう。そうなると、市町村の焼却炉で処理している一般廃棄物も全て産業廃棄物に衣替えしてしまう。」だから、「処理する前に既に一般廃棄物であった場合は、それを処理した後に残る<残渣物>は一般廃棄物である。」という不文律が原則的には存在する。

というものでしたね。

私は、以前に次の相談を受けたことがありました。

「※工場にある実験所のモルモットの死体を焼いたものを燃え殻として産廃処理できないか」

このときに私はオリジン説「一般廃棄物を処理したものはどこまでいっても一般廃棄物である」という原則に従って対応してきましたが、そうではないケースがあるのであればもう少し詳しく知りたいです。

そうですねぇ。

前回までの「ペットボトル通知」でも、中身のジュースを消費者が飲んで不要になったペットボトルは「本来は一般廃棄物」であるが、これがジュースの販売者等が店頭などで回収してリサイクルルートに廻すときなどは、販売者(回収者)を排出者として、そこから以降、回収された廃ペットボトルは産業廃棄物として扱う等の見解を示しています。

オリジン説と「排出時点がすり替わる」は、表裏と言うか正反対の理論構成です。

むつごさんの事案であるモルモットの死体の燃え殻なども、その一つで、オリジン説でいくなら、むつごさんの対応のとおり、一般廃棄物でしょう。

しかし、「モルモットの死体を焼却する」と言うところまでその「実験」業務と捉えれば、実験室から排出される「燃え殻」は産業廃棄物となるでしょう。

この「着手時点」「排出時点」の考え方は、産業廃棄物の処理や種類の考え方にも影響します。

たとえば、実験室で廃酸と廃アルカリが発生した。
その廃酸と廃アルカリを混合させて中和して排水する行為は、果たして「中間処理」をやったのか?

もし、その廃酸、廃アルカリが強酸、強アルカリならその実験室を有する事業所は「特別管理産業廃棄物排出事業所」に該当するのか?廃酸、廃アルカリを中和した後に沈殿物が発生したときは、その沈殿物は「廃酸、廃アルカリの処理物」か「汚泥」か。

現実的には、実験室で廃酸、廃アルカリをポリタンクに溜めておいて、専門業者に委託するときは「廃酸、廃アルカリの排出」と捉えることはほぼ間違いないでしょう。

しかし、前述のとおり「実験の過程で発生し、同じ実験室で、ビーカーの中で中和した。」なんてレベルになると、廃酸、廃アルカリの排出事業所とは捉えられない場合が多いように思います。

「モルモットの死体を焼却する」と言う行為も、実験した細菌、ウィルスが外部に出ることの無いように実験室内で焼却した、というレベルなら廃棄物処理法の対象は「モルモットの死体」ではなく、その死体を焼却した後の「燃え殻」でよいようにも思います。

このように、原則はオリジン説なのですが、排出時点をすり替えることにより「物の区分」や「業許可」「資格の要不要」まで違った判断になってしまうのです。

オリジン説を採用するか排出時点をずらして、違う種類にするのかはどのような判断になるのでしょうか。

それはもう「社会通念」と言うしか無いでしょうね。

あまりにも違和感のある運用では困ります。ペットボトル通知においても「この理論は乱用するな」的に釘を刺している記載もあります。

しかし、デパートなどに設置してある「ごみ箱のごみ」などは、世の中では抵抗なくこのルールに則って扱ってきています。

どういうことですか?

デパートで子供がアイスを買って休憩所で封を開けて食べた。包み紙のプラスチックは要りませんね。

この時点で包み紙の廃プラスチック類は一般廃棄物ですか産業廃棄物ですか?

一般国民である一般消費者がなんら事業活動も伴わずに排出しているですから、それは一般廃棄物でしょう。

その包み紙の廃プラスチック類を休憩所にデパートが設置しているごみ箱に捨てた。閉店後、ごみ箱のごみはデパートによって回収される。

さぁ、この時点で、包み紙の廃プラスチック類は一般廃棄物ですか?産業廃棄物ですか?

そこまで行くと、排出者はデパートで、したがって事業活動を伴って排出された廃プラスチック類なので産業廃棄物だと思います。

そうですよね。このように通常の社会生活でも、我々はなんの抵抗もなく前述のように取り扱ってきています。

したがって、理論構成をしっかりして物理的な処理もしっかりしていれば、そう大きな問題になることも無いでしょう。そうやって、廃棄物処理法は50年やってきたのですから。




話題は変わりますが、
総合判断説についてはあらためて難しい議論だと感じましたが、実際には排出側がお金をもらえるものは有価物、排出側がお金を払うものは廃棄物として判断しています。

総合判断説まで考えないといけないケースは無料のときと数年前に世間を騒がせた「ダイコー事件」に関連するような場合のみと考えていても問題はないでしょうか?

他にも総合判断説で考えた方がいいケースがあればおしえてください。

知り合いの牧場さんでは、産業廃棄物処理業の許可もあるので本来は残渣を飼料に使うための加工費は処理費としてもらえるのに、産廃になると保管や使い方に制約がついてしまうからあえて処理費をもらわずに1円払って買取にしているとのコメントを聞いたことがあります。

総合判断説を持ち出さなくてはならないのは、むつごさんの言うとおり「0円近辺」の事案がほとんどでしょう。

300万円のダイヤモンドを廃棄物だと思う人は居ませんし、処理料金を支払って持って行っていってもらっている有害な廃液を有価物だと思う人もいないでしょう。

知り合いの牧場主さんの行為が、裏取引無く、真に1円で買い取っているのなら、おそらく総合判断説比較表で点数を付けても「有価物」となると思います。ただ、需給バランスが崩れて、買い取れなくなり、加工もしないで腐敗していくような状況になれば廃棄物でしょうねぇ。

是非、点数評価試して下さい。

手元マイナスについては最近よく聞きます。

収集運搬業者さんが取引の窓口になり、原料として利用してくれるところ(処分業者、リサイクラー)に運搬業者さんが運搬費をもらって(運搬についてだけ産廃として受託)持っていくような形を運搬業者さんがスキームをつくって排出事業者に提案していることをよく聞きます。
運搬費が少し高くなっても、処理費がかからないので、排出事業者は喜んでいます。

実際、運搬費をまかなうほどの価値はないけれども、持ち込んでもらって使うくらいの価値はある廃棄物はこのパターン多いと思います。
※汚泥に含まれる成分の抽出、残渣のバイオガス発電利用、残渣の飼料利用等

排出事業者はコストダウンになり、運搬業者は仕事の増加につながります。利用者も必要な原料の確保ができるので、関係者全員にメリットがあるよいビジネスというに見えますが、BUNさんはこのビジネスをどう思いますか?何かリスクは感じますか?

まさに総合判断説比較表を持ち出して、着手時点ごとに確認しておく必要がある事例のような気がします。

行政処分指針でも、「名称を変えても実質的な廃棄物処理料金と判断される場合は、取引価値の有無としては廃棄物性が強い」旨述べています。通常なら100円で済むところを900円も徴収しているのであれば、差額の800円は処理料金と見なすことができるってことですね。

前述のとおり「0円近辺」の「物」は、需給バランスが崩れると、とたんに「全て廃棄物」となりバイオマス発電自体が「廃棄物処理」を兼務しているという見方も出てきます。

ただし、バイオマスの活用の事案については、バイオマスの活用を推進する立場から規制改革通知もあり、「手元マイナス」であっても廃棄物処理法を適用しないという事案も示されていますから、具体事例に関しては環境省に確認してみてください。(平成25年6月28日付け通知4本)




あと、「排出事業者がだれか」というのは結構悩みます。

製造工場との取引の場合は明確ですが、設備工事の会社なんかが窓口になる取引のときが難しいです。

設備の洗浄のみを行っている業者さんが請け負った工場内配管やタンクの洗浄により発生する洗浄液(設備内の残液も含む)の排出事業者は洗浄を行った業者さんでしょうか?それとも設備を保有している工場さんでしょうか?

ほかにも工場内の排水処理施設の運転管理を請け負っている業者さんから運転管理がうまくいかず排水処理の調子が悪くなったため、処理槽内にたまっている排水を処理しなければならなくなった場合は、排出事業者は運転管理の業者さんでしょうか?それとも排水処理施設がある工場でしょうか?

「清掃廃棄物」については、昭和50年代に厚生省が出したバイブル的な質疑応答があるがために、「清掃」と言う限りは、その排出者は「元々の所有者、管理者」というのが定説です。

通常「清掃」という言葉でイメージするのは、「部屋の掃き掃除」などでしょう。所有者が部屋に散らかしていたごみを、清掃会社の清掃員がホウキで部屋の片隅でちり取りに掃き集めたとしても、そのごみの排出者はその部屋の所有者でしょう。

そうですね。掃いた程度で清掃員が排出事業者だというのは違和感があります。ごみは清掃する前に既に存在していた訳ですから。

「清掃」「メンテナンス」をテーマした話は、もう10年以上前に出版した「どうなっているの?廃棄物処理法」で詳細に書きました。

「タンク洗浄」などは(し尿浄化槽)でも飲料水タンクでも出てくる課題です。

これは一応「清掃」という位置付けで、「タンクに溜まっていた汚泥」は施設所有者、管理者の廃棄物であり維持管理に当たっている人物は「タンクを清掃した」「既に存在している廃棄物を移動しただけ」と捉え、元々の所有者、管理者が排出者であるとしています。

ただ、最近ではワックス塗装した床にワックスをかけ直すときは、斑(まだら)にならないように一旦ワックスを落とすのだそうですね。

その時の「ワックス剥離剤」は強力な、酸、アルカリとのことで、専門の清掃業者が持ち込むのだそうです。この「ワックス剥離剤が多量に入った清掃廃液」の排出者は誰かと聞かれれば、それは清掃業者とする方が理にかなっていると思うのです。

このことについては、7~8年前に産業環境管理協会の機関誌に掲載した文章があります。

なので、この質問の答えも「原則的には施設の所有者、管理者」、となりますが、清掃業者等が独自に資材を持ち込み、その資材の方が主たる廃棄物となるようなケースでは清掃業者が排出者となる、という事案もあるかと思います。

ただ、質問の「運転管理がうまくいかず排水処理の調子が悪くなったため、処理槽内にたまっている排水を処理しなければならなくなった場合」というのは、施設の維持管理を受託しているだけであり、施設そのものの所有権、管理責任はやはり施設の管理者にあると思われます。よって、質問のような「排水処理施設がある工場」からの汚泥などの排出者は「工場」のように感じます。

長々と書いてしまい申し訳ありません。
コラムと本を読んで、あらためて聞いてみたくなってしまったので、いろいろと質問させて頂きました。

今回伺った「排出者」「排出時点」「物の区分」「有価物・廃棄物」はリアルに産廃処理の現場に関わる人間としては疑問が尽きないテーマですね。引き続きよろしくお願い致します。

ありがとうございます。

今回のBUNさんの見解でも実感していただいたことと思いますが、新刊「対話で学ぶ廃棄物処理法」3章で取り上げたテーマは現時点でも「定説」は無いと思います。

だからこそ、国も法令で規定出来ず、また、通知でも明確には記載出来ない、すなわちグレーゾーンなんです。でも、いつまでもグレーゾーンにしておいて、強く言った者勝ち的な状況はいかがなものか、少しでも目安を作れないものかと書いてみたものです。

と言うことは、むつごさんの感想は極めてまともな、的を射たものと思っています。むつごさんのように読んでいただき、さらなる疑問により議論がなされてよりよい形に仕上がっていくのであれば執筆者冥利に尽きるというものです。




と言うことで、「リヴックスコラム」を読んでいただいた皆さんの感想をさらにお待ちしています。

今回のテーマ以外のことでも結構です。
皆さん、日ごろの質問をぜひお聞かせくださいね~~(^^)/

アーカイブ