リヴァックスコラム

第11回 「下取り」について

長岡 文明氏

前回は「廃止通知」についてお届けしました。
「廃止通知」についてをお読みなり、「<下取り>については、通知が廃止されてるの?」と疑問に思われた方がいらっしゃると思います。

実は、「下取り」他、前回紹介した廃止疑義応答のいくつかは、その後、姿を変えて再登場しているものもあるのです。「下取り」については、既に第3回で取り上げました平成25年の通知で復活しています。(参照:手元マイナス通知)
(なお、平成25年の通知は「直近」通知であり、これ以前にも同様の表現の通知はいくつかありました。)

その部分を紹介しましょう。


<通知詳細>

平成25年3月29日
環廃産発第13032910 号

各都道府県・政令市産業廃棄物行政主管部(局)長殿
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長

産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理
施設の許可事務等の取扱いについて(通知)

 産業廃棄物行政については、・・・(中略)

14 その他
(1)(略)
(2) 新しい製品を販売する際に商慣習として同種の製品で使用済みのものを無償で引き取り、収集運搬する下取り行為については、産業廃棄物収集運搬業の許可は不要であること。
(3)(以下略)

「下取り」に関して、BUNさんの知る限り、最初に疑義に登場したのは、前回紹介しました昭和54年11月26日の通知です。

この「下取り」について、改めてなぜ取り上げたかといいますと、まさにこれこそ「通知行政」の典型だと思うからです。この話は最後にとっておきまして、ご存じの方も多いと思いますが、「下取り」について復習しておきましょう。


<下取り5つの条件>

よく、気軽に「下取りしてよ」とか、「許可がないから下取りでいこうか」とか、「下取りはしますが、料金がかかりますよ」とか話している人がいますが、極めて危うい状態です。
通知そのものは、前述の通り、たった1文なのですが、「下取り」が成立するには5つの条件があることがわかります。(なお、この話は拙著「どうなってるの?廃棄物処理法」の「許可不要の巻」で詳細を記載していますので、興味のある方はそちらもご覧下さい。)

まず、「新しい製品を販売する際」と言っていますから、「時期」が限定されています。

実は、これには面白い経緯があります。
環境省は規制改革会議の提言を受け、平成21年の会議の席で、「下取りは必ずしも新しい製品を販売する際でなくともよい」旨表明したのですが、公文書による通知の発出もなく、また、時期が限定されないことは脱法的運用も懸念されることから、多くの自治体ではその後も「社会通念上、新しい製品の販売と判断される範囲」として運用してきていました。
そして、この平成25年の通知では、そしらぬふりして、またこの「新しい製品を販売する際」を入れ込んだんですね。

まぁ、第2回の時に紹介したように、近年、「無料回収」と称して、許可も取らずにテレビや冷蔵庫なども集めて廻る人たちが多くなり、環境省は平成24年3月19日付けの通知まで発出した位ですから、BUNさんとしては、この文言は必須のものと考えています。

次に、「商慣習として」と言っていますね。あくまでも、「商習慣」として成り立っている行為に限定です。
成り立たない典型的な例としては、受け皿である販売店が下取りを拒否しているような場合ですね。商習慣は甲乙納得して成立するものです。片方が納得しない行為は「商習慣として」とは言えないでしょう。

次に、「同種の製品で使用済みのもの」と言っていますから、たとえば、「ステレオ買うから、代わりに使い古した応接セットを持って帰ってくれ」というのは「下取り」とは言いませんね。
ただ、これも判断に迷うグレーゾーンはありまして、「ファンヒーターを買うから古い石油ストーブを持ち帰ってくれ」は、まぁ暖房器具という大きなカテゴリーでは「同種」と言えるかなぁとも思います。

この判断材料の一つに、環境省の担当者が給食関連の業界紙に論文を載せたものがあり、この中で「牛乳販売店が使用済みの牛乳パックを回収する行為は下取りに当たるか?」という質問に対して、次のような趣旨を述べていました。

下取りとは「販売品と同種の使用済みを引き取る」であり、牛乳販売業者が販売しているのは、牛乳であり、パックでは無い。したがって、いくらパック入り牛乳を販売していても、パックだけを「下取り」と称して、集めて廻るためには(原則)処理業の許可が必要になる。

なかなか、厳格で厳しいですね。

さて、次ですが「無償で引き取り」と言っています。ときおり、「下取りはしますが、処理料金を頂戴しますよ」などと言っている人がいますが、これは明確に「下取りとは呼ばない」ですね。下取りという限りは「無償」が必須要件です。

次に、「収集運搬する」ということで、行為を収集運搬に限定しています。これは、下取りが成立した後は、排出者は下取りした側に移るという概念なんですね。だから、中間処理以降はこの通知の対象外になるってことです。
このことに関しても、明確な規定はないのですが、次の「シュレッダー処理される自動車及び電気機械器具の事前選別について平成七年六月二七日 衛産第五五号」で「シュレッダー処理される自動車及び電気機械器具の事前選別ガイドライン」を示していて、このガイドラインの中に次の文言があります。

「第2章、2-1 排出事業者の責務 (1)排出事業者は、事業活動(下取り行為を含む。)に伴って生じたすべての産業廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。」

まぁ、社会通念上も、一旦下取りされた以降は、下取りした側が責任持って処理しているのが普通であるとして取り扱っていますよね。

でも、これって、廃棄物処理法ではとても大きな事項なんです。
つまり、「排出者責任が転嫁」されるんですね。

いつも、いつも、「排出者責任」「排出者は最終処分場まで責任があるんだ」「途中で不法投棄等があれば排出者も措置命令の対象になる」「中間処理残渣物も元々の排出者にも責任はある」などと言われているにもかかわらず、「下取り」は下取りが成立以降は、(原則的には)元々の排出者には責任が無くなるんです。これは大きな話なんです。


<下取りの一般廃棄物と産業廃棄物の取扱いについて>

最後に「産業廃棄物収集運搬業の許可は不要である」と言っています。実は、ここだけは、昭和54年の疑義応答と変わっています。

昭和54年の通知では「・・・収集運搬する下取り行為については、収集運搬業の許可は不要である。」と述べていて、一般廃棄物も産業廃棄物も区別していなかったんです。 それを現在は、産業廃棄物についてだけ言及している形です。
これは、以前にも書きましたが、法定受託事務なのか、自治事務なのかって要因らしいです。国(環境省)は、法定受託事務だからこそ、「技術的な助言」として、産業廃棄物に関しては都道府県に「もの申す」ことができます。

しかし、一般廃棄物に関しては市町村の自治事務なんですね。全く権限がありません。
この関係を説明するのは、なかなか難しいのですが、BUNさんは次のようにたとえています。(学術的には正しくないかもしれませんが、感覚的にわかっていただくために)

(例)
隣の家の息子の部屋がとても汚くて散らかっているとします。さぁ、隣の人間は、注意しますか?
これが、部屋に留まらず、庭までごみが積み上げられていて、時々風で自分の敷地にまで飛んできたり、悪臭が漂ってきているっていうなら話は別でしょうが、息子の部屋で留まっている限り、おそらく注意する隣人はいないでしょう。
それは、「隣の家については自分には権限がない。関係ない。」からですよね。これが「自治事務」です。

ところが、自分はその家の家主、大家だとしましょう。と、なると、住んでいるのは赤の他人で、趣味や仕事などには干渉しないとしても、部屋が汚されたんなら、そもそも自分の財産の価値が落ちますから、「あなた、そんな使い方しないでよ」と注意しませんか。 これが、「法定受託事務」です。

廃棄物処理法において、産業廃棄物に関する規定は国から都道府県への法定受託事務なのですが、一般廃棄物に関する規定は、そもそも市町村の自治事務なんです。(※一部の規定はそうでない条項もあります)
だから、一般廃棄物処理業にかかわる部分については、環境省の通知では口出しできず、わざわざ「産業廃棄物収集運搬業」と言い換えたんですね。

ただ、「じゃ、一般廃棄物については下取りの考え方は違うのか?」というと、そんなことはありません。たしかに、権限は自治事務ですから市町村にあるとは言うものの、一つの市町村独自に「下取り」に関して、(万が一裁判になっても負けないレベルの)理論構成を行い、独自路線を貫く、というところはまずありません。

結局、一般廃棄物の下取りに関しても、この通知が根拠となって、「許可不要」として取り扱っているところが「ほぼ」全部でしょう。


<通知の力>

さて、ここまで述べてきたので、冒頭で先延ばしにしていた、なぜBUNさんは下取りを通知行政の典型だと思うかは、既にご理解いただけたと思います。

廃棄物処理法の違反行為で、もっとも悪質なものに「無許可」があります。廃棄物処理法の罰則でもっとも重いのは第25条、最高刑懲役5年でしたね。無許可は罰則第25条、無許可業者委託も罰則第25条です。
だから、受け手側の業者さんも、排出側の事業者さんも、「無許可にならないように」と細心の注意を払っていると思います。

「下取り」ってなんですか?「下取り」される「物」の排出者はだれですか?
普通に考えれば、今までその物を使用していた人が排出者でしょう。では、その排出者以外の人物がそれを扱うなら許可が要りますよね。

ところが、「下取り」に関しては、その許可が不要なんです。しかも、そのことを規定した法令はどこにもない。国民の総意である法律でも規定していない。閣議決定される政令でも規定していない。担当大臣の決裁で作れる省令にさえ規定していない。
「下取り」とは、それほど脆弱な、確たる基盤のない無い制度なんです。
それにも関わらず、世の中はなんの抵抗もなく、「下取り」をやってきている。根拠は、この「通知」だけなんです。

ね、通知の力っておそろしいですね。法令を一通り勉強したら、是非、「通知」も一読しておきましょうね。
※ 一般廃棄物に関する規定でも、たとえば、一般廃棄物処理施設設置許可は都道府県の自治事務、再生事業登録は産業廃棄物に関しても都道府県の自治事務とされています。正しくは廃棄物処理法第24条の4の規定をご覧下さい。

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

アーカイブ