リヴァックスコラム

第3回 「手元マイナス通知」

長岡 文明氏

前回は「たとえ、買い取られる場合であっても廃棄物処理法が適用される」という、「0円回収通知」を紹介しましたが、今回は逆に「<物>を渡すときに、出費の方が多くなっても廃棄物処理法を適用しない」という通知をご紹介しましょう。

この通知は平成25年3月29日に発出された「エネルギー分野における規制・制度改革に係る方針」(平成24年4月3日閣議決定)において平成24年度に講ずることとされた措置(廃棄物処理法の適用関係)について」(以下、「手元マイナス通知」と記載します。)です。
原文をまだお読みでない方は次のアドレスです。
http://www.env.go.jp/recycle/waste/reg_ref/no_13032911.pdf
(環境省ホームページへリンク)

<通知の経緯>
この通知は、以前に発出された通知の改訂の通知であり、そもそも「手元マイナス」という概念を知っていないと、なんのことかわからないと思いますので、今回は、通知の概要を述べるまえに、経緯などを先に書いてみます。
<物>が有価物か廃棄物かは、「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「占有者の意志」の5つの要因等を「総合的に判断する」という、いわゆる「総合判断説」が定説になっています。
しかし、そうは言っても、取引の度に、この5つの要因で検討していたのでは、大変な話ですから、たいていの場合、裏取引等のごまかしがなければ、「人が買ってくれる物は有価物」「処理料金を払わなければ持って行ってくれない<物>は廃棄物」として取り扱われています。この理屈を推し進めれば、「<物>を手放すときに<金>も出て行ってしまう<物>は廃棄物だ」ということになってきます。
ところが、「0円」や「極めて低廉」な価格の<物>は、「買ってくれる」人が存在していても、その人のところまで運ぶ輸送費の方が高くなってしまうケースが出てきてしまいます。

<事例>※あくまで「たとえば」なので、現実に同じようなケースでは必ず行政窓口に相談してくださいね。
たとえば、ゴムサンダルを製造している工場があり、その工場では原料となる廃タイヤを、工場まで持ってきてくれれば、30円で買うとします。
この話を聞きつけた自動車整備工場は、廃タイヤをゴムサンダル工場に搬入しました。たしかに、30円で買ってくれましたが、輸送費が1本あたり200円かかってしまいました。つまり、廃タイヤ1本あたり、170円のマイナスになってしまいます。このケースの場合は、廃タイヤははたして、廃棄物なのでしょうか?有価物なのでしょうか?


整備工場は、廃タイヤを搬出する毎に、支出しなければなりませんね。この状態を「手元マイナス」と称しています。

たしかに、整備工場から排出される時点では、<物>と一緒に<金>も出て行くので、廃棄物の形態のようでもありますが、サンダル工場に到達した時点では、「原料として買い取っている」という状態は、通常の加工業の原料仕入れとなんら変わりがありません。
こういうグレーゾーンについては「はっきりしてくれ」という社会の要望があり、平成17年3月25日付けで「規制改革・民間開放推進3カ年計画」(平成16年3月19日閣議決定)において平成16年度に講ずることとされた措置(廃棄物処理法の適用関係)について(以下、「旧手元マイナス通知」と記載します。)の第4に「廃棄物か否か判断する際の輸送費の取扱い等の明確化」として記載されました。
この旧通知により、前述の事例で言えば、手元マイナスとなってしまう整備工場の段階では廃タイヤは廃棄物であり、これを輸送している間も廃棄物、すなわち他者の<物>を輸送するのであれば収集運搬業の許可が必要です。
しかし、買い取ってくれるサンダル工場に到着した以降、廃棄物処理法は適用されないという「明確」なものとなっていました。

ここまで理解頂いてようやく、今回取り上げた「現、手元マイナス通知」の概要を説明することができます。
ところが、この通知はとてもニュアンスの難しい言い回しになっていることからまずは、注目する箇所を抜き書きしてみます。

<通知抜き書き、原文のまま>
『産業廃棄物の占有者(排出事業者等)がその産業廃棄物を、再生利用又は電気、熱若しくはガスのエネルギー源として利用するために有償で譲り受ける者へ引渡す場合においては、引渡し側が輸送費を負担し、当該輸送費が売却代金を上回る場合等当該産業廃棄物の引渡しに係る事業全体において引渡し側に経済的損失が生じている場合であっても、少なくとも、再生利用又はエネルギー源として利用するために有償で譲り受ける者が占有者となった時点以降については、廃棄物に該当しないと判断しても差し支えないこと。』

ねっ、とっても「含蓄に富んだ」、日本語の曖昧さをフルに生かした名文(迷文?)でしょ。236文字もあるのに一文。「。」は一つしか有りません。どこまで形容詞で、どこが主語なのかもよくわからない。
いろんな形容詞、条件を削除して、削除して、削除して、誤解を覚悟で簡略化すれば、次の文章になる・・・ですよね?
「引渡し側に経済的損失が生じている場合であっても、有償で譲り受ける者が占有者となった時点以降については、廃棄物に該当しない」。これを意訳すれば・・・
「排出者が手元マイナスでも、譲り受ける者が買い取った以降は有価物だよ」です。
あれぇ~、これじゃ、17年の旧通知と同じですね。

つまり、新旧通知は建て前上の表向きの「主たる内容」は変更無しなんです。
変更点は「形容詞、条件」の部分にあたるんですね。
ポイントは「少なくとも、」という文言です。
この「少なくとも」を入れ込んでみましょう。

「排出者が手元マイナスでも、少なくとも、譲り受ける者が買い取った以降は有価物だよ」です。
ほら、ニュアンスが変わっちゃったでしょ。つまり、この通知は、表面上は「譲り受ける者が買い取った以降」についてしか言明していないんだけど、真に主張したいのは、「少なくとも」でない部分、すなわち、排出者側のことを言いたい訳です。
「少なくとも買い取った以降は廃棄物じゃない→じゃ、買い取られる前は?」このことについて、環境省は言いたい訳ですね。

この「手元マイナス通知」は、この文章の前に次のように述べています。
「有償で譲り受ける事業者等が占有者となった時点以降の法上の取扱いを明確化するものである。」
つまり、17年の時点の旧通知では、排出者の時点、それを運んでいる時点についても「明確化」していたのに、25年に改訂した新通知では、「買い取られた以降」に狭められている訳です。
そして、新通知の最後には「廃棄物該当性の判断については、上述の「行政処分の指針」第一の4の(2)の②において示したとおり、法の規制の対象となる行為ごとにその着手時点における客観的状況から判断されたいこと。」と記載しています。

まとめに入る前に、前述の「抜き書き」箇所の「形容詞、条件」の文言も確認しておきましょう。
「産業廃棄物の占有者(排出事業者等)がその産業廃棄物を、再生利用又は電気、熱若しくはガスのエネルギー源として利用するために有償で譲り受ける者へ引渡す場合」

まず、対象は「産業廃棄物」です。これは、原則的に一般廃棄物は市町村の自治事務であり、権限の関係から国は口出ししにくいためと考えられます。ただ、この課題は一般廃棄物であろうと、産業廃棄物であろうと同じ事なので、よほど独自路線を進めている市町村以外は、一般廃棄物についても同じ解釈、運用になるでしょう。(なんといっても法律を作ったのは国なんですから、本当は一般廃棄物に関しても、国はもっと踏み込んだ運用をするべきだとBUNさんは常々思っています。閑話休題)
「再生利用」ですが、次に、「電気、熱若しくはガスのエネルギー源」という文言が来ていますから、ここの「再生利用」は、サーマルリサイクルを含まない、マテリアルリサイクルの意味でしょう。
そして、サーマルリサイクルについては、わざわざ改めて「電気、熱若しくはガスのエネルギー源」と示しています。
実はこれは、平成17年の旧通知では、3月に通知を発出した後、数ヶ月後に「サーマルリサイクルは該当にならない」と取れるような軌道修正のQ&Aを示した経緯があったんです。
今回の新通知は、まさに「エネルギー源として利用」を促進するのが大きな目的の一つのようなので、入念に記述したものと思われます。
そして、なんといっても「有償で」です。「0円、無償」や「料金を徴収する」という形態までは容認していません。

<まとめ>
それでは、今回の「通知」について、確認、復習してみましょう。
輸送費により、支出入が逆転してしまうグレーゾーンが存在する。
排出者側では「手元マイナス」となるが、受入側では「買い取れる」<物>がこれにあたる。
このケースの場合、廃棄物処理法を誰に、どんな場合に適用されるのか不明確であった。そこで、平成17年の時に、「輸送費の取扱の明確化」を目的とした通知を発出した。
この旧通知では、「手元マイナス」になる排出者は「廃棄物の排出者」であり、これを運搬する者は「廃棄物の運搬者」である。しかし、リサイクルの原料として買い取ってくれる者に到達して以降は廃棄物処理法を適用しない、すなわち、この時点から有価物である、としてきた。
ところが、今以上にリサイクル、サーマルリサイクル、バイオマスの活用を図るためには、一律に「手元マイナスは廃棄物」とすることが不都合なケースが出てきて、要望も高まった。
そこで、リサイクルのために「有償で譲り受ける者が占有者となった時点で、以降は、廃棄物に該当しない」のは、今まで通りだが、「それ以前」つまり、「排出者が手元マイナスになっているケース」でも、「廃棄物処理法を適用しないケースも<あり得るよ>」とした。
もちろん、今まで通り「廃棄物処理法を適用するケースも<あり得るよ>」である。
手元マイナス時の排出事業者に廃棄物処理法が適用されるかどうかは、総合判断説で判断するしかないね。
これが「法の規制の対象となる行為ごとにその着手時点における客観的状況から判断される。」ってことですね。

要は、折角17年時点で、「輸送費の取扱」について「明確化」したんだけど、8年経って、バイオマスの活用・リサイクルの促進っていう面では不都合が出てきたので、ケースバイケースで対応していきましょうって軌道修正したっていうことかな。
まぁ、バイオマスの活用、リサイクルの促進っていう意味では「一歩前進」なんだろうけど、廃棄物処理法の適用って面では、平成17年以前の「不明確化」の時代に戻っちゃったってことでしょうかね。

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

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