リヴァックスコラム

第9回 野焼きについて

長岡 文明氏

今回取り上げる違反事例は、「野焼き」です。

ただ、国語の辞書に出てくる伝統的な「野焼き」を思い浮かべる方もいらっしゃると思いますので、最初にちょっとおことわりをしておきます。 国語辞書に登場します「野焼き」は、春の春日山で行われるような、新芽を息吹かせるために行われる行為で、後述しますが、これは違法ではありません。

廃棄物処理の世界で通常使われる「野焼き」は、今回の記事にあるような、正規の焼却施設を用いずに行う「野外焼却」を指しています。これも記事にあるとおり、廃棄物処理法第16条の2ですね。 この条文が制定されたのは、それほど昔のことではなく、平成12年の法律改正により平成13年から施行されたものです。 比較的新しい条項なのですが、罰則は重く、不法投棄や無許可行為と並んで罰則第25条、最高刑懲役5年です。 ただ、難しいのは人間は古来より、排出した「ごみ」は「捨てる」か「燃やす」かして処理してきました。遺跡として発掘される「貝塚」などは古代人のゴミ捨て場だったところです。ごみを捨てる、ごみを燃やす、という行為は、息をするのと同じように、人間が生きていく上で、必要な行為、やって当然というものだった訳です。この行為を禁止して罰則の対象にする、ということは、今までのやり方に慣れ親しんだ人達には大きな抵抗があるわけです。 ところが、生活が近代化、高度化してきて排出されるごみも多様化、大量化してしまい、やたらに捨てたり燃やしたりすれば、自分たちの生活に悪影響を及ぼすようになってしまいました。

そこで、「捨てる」の方は、「埋め立て」という基準を作り、段階的に制度を整備し、現在では「最終処分場でなければ埋立をしてはならない」、それ以外の所に「捨て」た場合は、不法投棄という罰則を設けたわけです。 「燃やす」の方は、不法投棄ほど目立った事件がなかったせいか、それほど厳しいルールは不要だったのかもしれません。 ところが、平成10年前後にダイオキシン騒動が勃発し、設置許可が必要な廃棄物焼却施設の基準をそれまでとは比較にならない程厳しいものに改正しました。しかし、「じゃ、設置許可が不要な規模の焼却なら規制はかからないんだろう」ということで、全国で小型焼却炉や「野焼き」が数多く見られるようになってしまったのです。 そこで、小型焼却炉に関しては、(現)省令第1条の7(産業廃棄物に関しては政令第6条第1項第2号イでこの基準を準用)により、設置許可の必要な焼却施設とほぼ同等な基準を設定したのです。 そのうえで、政令第3条第1項第2号イで「廃棄物を焼却する場合には、省令で定める構造を持つ焼却設備を用いて」焼却すること、と規定しました。 これにより、一時はその辺でよく見かけた「ドラム缶焼却炉」などは、「基準に合わない焼却行為」となり、これが今回の記事の第16条の2違反となる訳です。 ここで、改めて第16条の2を見てみましょう。

(焼却禁止)

第十六条の二  何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。

一  一般廃棄物処理基準、特別管理一般廃棄物処理基準、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準に従つて行う廃棄物の焼却

二  他の法令又はこれに基づく処分により行う廃棄物の焼却

三  公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの

回りくどい書き方ですが、1号に規定する「廃棄物処理基準に従つて行う廃棄物の焼却」というのが、ここまで説明してきた「設置許可を取っている焼却施設」「省令第1条の7」の基準に従って行う焼却、ということで、これ以外の焼却は原則違反ということになる訳です。 ところが、不法投棄と違って、この「野焼き」の難しいのは、2号、3号により「例外」を設けているところです。この例外の全てを紹介するのは難しいので、3号で規定している「政令」をご紹介しておきましょう。

(焼却禁止の例外となる廃棄物の焼却)

第十四条  法第十六条の二第三号 の政令で定める廃棄物の焼却は、次のとおりとする。

一  国又は地方公共団体がその施設の管理を行うために必要な廃棄物の焼却

二  震災、風水害、火災、凍霜害その他の災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な廃棄物の焼却

三  風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却

四  農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却

五  たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であつて軽微なもの

ちなみに、冒頭で例示しました伝統的な春日山の野焼きは、この3号により「禁止の例外」、すなわち禁止されていない、合法的な行為、となる訳です。 なお、「野焼き」規定についてもっとお知りになりたい方は、平成12年に詳細な通知が出ていますので、参考にしてください。 さて、記事の事案に戻りますが、もし、この記事に誤りがないなら「47.3グラム」ミカン一個程度の物を燃やして処分を受けたことになります。まぁ、多分、キログラムの間違いだとは思いますが、それでも木くず47キロって、一輪車一台分程度ですよね。軽トラの積載量が500キロですから。 たった、それだけでも山口県は許可業者の許可を取消処分とした訳です。 ちなみに、もちろん、「野焼き」は許可業者だけが違反の対象となる訳ではありません。

次の記事は2年前になりますが、排出事業者が自分の廃棄物を野焼きし、書類送検された、という事件です。 ついつい、昔の習慣で、「ごみ焚き」をしてしまう、今やこの行為は大変な違反行為である、ということを再認識させられる事件ですね。

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

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