リヴァックスコラム
第19回 実験・実証に関する通知について
「実験・実証」については、廃棄物処理分野に限らず、いろんなところで問題になります。
「上手く行けば、本格的にやるつもりだけど、上手く行かないようだったら、身を引くよ。だから、試しにちょっとだけやらせてみてくれないかなぁ」ってところでしょう。
ところが、廃棄物処理法では「許可制度」があり、誰でも他人の廃棄物を扱えるってもんじゃないですよね。そのため、昔からこの「実験・実証」ということが課題になっていました。
BUNさんが承知している中で、最初に登場したのが、この「通知」です。
昭和56年10月30日環整第47号
「廃棄物処理法に関する法律の疑義について」
排出事業者より産業廃棄物を受け取って産業廃棄物の処理に関する試験を行う者は,産業廃棄物処理業の許可が必要か。
答 試験を行う者が排出事業者から処理料金を受領せず,試験に必要な最小限の量の産業廃棄物のみを処理する場合は,許可を要しないものとして取り扱って差し支えない。なおその判断を行うに際しては,事前に試験に関する計画を提出させ,必要に応じて立入検査を行い,試験が生活環境の保全上支障を生じさせる内容のものである場合は中止させる等の措置をとる必要がある。
この回答は極めて、わかりやすかったのですが、どこか支障があったのでしょうね。
平成5年の時の改訂により、削除されてしまいました。今回、いろいろとネットで検索したのですが、残念ながらこの文章は見つかりませんでした。
なお、この通知にはもう一つ「試験」について回答があります。
問73 産業廃棄物の処理に関する試験を行うため産業廃棄物処理施設を設置する場合、法第15条第1 項の届出を必要としないか。
答 お見込みのとおり。ただし、産業廃棄物の処理に関する試験を行うためのものであることを確かめる必要がある。そのため事前に試験に関する計画を提出させ、必要に応じて立入検査を行い、試験が生活環境の保全上支障を生じさせる内容のものである場合は中止させる等の措置をとる必要がある。
現在、というより平成4年以降、産業廃棄物処理施設は設置許可制度になっていますから、この問の「届出」は「許可」と置き換えて考えていただいていいと思います。
さて、そもそも、なぜこの内容が「通知」であるかと言えば、法律で「許可が要る」と規定している訳です。(産廃に関しては、「業」は14条、「施設」は15条)
それなのに、許可不要ですよ、とはなかなか言いづらい。もちろん、堂々と「許可不要」と規定している事項もあるんだけど(省令第9条等)、この「実験、実証」という行為は、とてもとても幅が広い。なかなか、一律には決めがたいところがあって、それで「運用」により「上手くやってね」という「糊代(のりしろ)」とでも言うべきレベルがあるんでしょうね。
その「糊代」とでもいうべき範囲なんでしょうけど、皆さんは「どういうときに許可が必要だ」と感じますか?まずは「業」について考えてみましょう。
たとえば、「隣の一人暮らしのお年寄りのごみ袋を、ごみステーションまで運んであげる。」
この時、「一般廃棄物収集運搬業の許可が必要だ」と言いますか?じゃ、何軒ものお年寄りのお宅のごみを、何回も運んであげたらどうでしょう?
転勤の時期に、社宅でお隣で暮らしていた家族も引っ越すことになった。そこで、我が家から出たごみが多かったので、クリーンセンターに搬入しようとしたら、お隣のごみもあったので、ついでにクリーンセンターまで運んであげた。
もし、この時、「お金をいただいちゃった」ら許可は要りますか?
最初は、「そんなことには許可要らないだろう」と思っていたのが、少しずつ状況、要因を変えてみると、「ん~、そこからは要るかなぁ」となってきますよね。なかなか、難しいです。
実は、このことは冒頭でも書いたとおり、「他の分野」でも昔から、議論、検討されてきた要因なんです。
廃棄物処理法がスタートする遙か昔、戦後まもなくの昭和24年の公衆浴場や旅館の「業」「許可」についての通知です。もともと、廃棄物処理法も厚生省所管であり、公衆衛生を目的とする、という点では、同じような「考え方」であったものと思われます。
ちょっと長いですが、面白い内容ですし、基本的な考え方を述べていますので紹介してみましょう。
公衆浴場法等の営業関係法律中の「業として」の解釈について
(昭和24年10月17日 厚生省公衆衛生局長通知)
○旅館業法の運用について
基本的なことを言っていますね。
「業」とは、(1)不特定多数人、(2)反覆継続、(3)対価をとることの三つの要件を必要とする。これが古典的な「業」の概念ですね。
これだと単純明快ですよね。「誰を対象にしてるの?ふ~ん、あの家の一人暮らしの老人だけ、じゃ許可なんていらないよ。」「何回やったの?え~、たった1回だけ。じゃ、しょうがないよ。」「で、いくら取ったの?ただでやってあげたの?じゃいいよ。」ってことですね。
ところが、昭和24年、戦後まもなくの時代でも・・・
「この狭い解釈によっては、公衆衛生上種々不十分の点が生じている」と書いています。
すなわち、たとえ対象が特定の人物であっても、何回も、何回も繰り返しているってなると、そりゃ、やはり、伝染病や食中毒に繋がるんじゃないの。そういう行為は規制しないとだめだよね。となる訳です。
そして、この時代としての結論として・・・
「ある行為が反覆継続して行われ、しかもその行為が社会性をもつておこなわれる場合、これを業として行うと解釈」となった訳ですね。
廃棄物処理法における「業許可」もこの考え方を踏襲していると言っていいと思います。
すなわち、「対象とする廃棄物が、いくら親会社、1社だけから排出される場合であっても、繰り返し子会社がそれを処理するのであれば、廃棄物処理業の許可は必要である。」という疑義解釈、運用が次の通知でも示されています。(この通知はその後改訂されたために、この問答は日環センターの「廃棄物処理法の解説」でしか見れないようです。)
産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業の許可に係る廃棄物の処理及び清掃に関する法律適用上の疑義について
平成五年三月三一日 衛産第三六号
問7 Aの設置する工場の構内で、Aが排出する産業廃棄物を別法人Bが収集、運搬及び処分する場合、Bは処理業の許可が必要か。なお、Bは当該工場の場外では産業廃棄物の処理は一切行っていない。
答 Bの行為がAの設置する工場の構内でしか行われないとしても、他人の排出した産業廃棄物を業として処理するのであれば、処理業の許可が必要である。
ここまで来ると、特定少数であっても、また、営利目的でなくとも、「業に該当する」と解釈される事例も出てきそうですね。じゃ、残りは「反復継続」だけかとなると、これもなかなか難しいんです。と、言うのは、悪徳無許可業者が無許可で廃棄物を収集運搬していたとしますね。警察がちょうどその現場を見つけて捕まえた。ところが、そいつの無許可行為は、それが初めてだったとします。こういう状態だと、表面上は「反復継続」とは言えなくなり、したがって、この無許可業者は捕まえられないのか?となってしまいます。
そこで、現在では、「反復継続の意志を持って」やった時は、たとえ、それが1回目であったとしても「無許可」に該当する、と解釈されているようです。
となると、ますます、「業」「許可」の判断がしにくくなりますよね。
ましてや、今日の本題の「実験、実証」となると、1回こっきりとはいかないですよね。 そこで、時代の移り変わりとともに、この「実験、実証」についても、その運用が微妙に変わってきたと言えるでしょう。
現在は、実験・実証について公式の通知は次のものです。
「規制改革・民間開放推進三か年計画」(平成17年3月25日閣議決定)において平成17年度中に講ずることとされた措置(廃棄物処理法の適用関係)について
この「第二 産業廃棄物を使用した試験研究に係る規制について」として記載しています。
基本的な3要素(1)不特定多数人、(2)反覆継続、(3)営利目的、これをベースにしていますが、これまでの「試験研究だ」という悪徳業者商法から学習しまして、さらに詳細に規定しています。
(1)営利を目的とせず。
→これは多少の実費程度は受けてもよいような話もありますが、まぁ、原則的には無償、0円でしょうね。
(2)必要最小限の期間と量。
→試験の内容にもよるでしょうが、「試験」である限り常識の範囲でしょうね。
(3)生活環境保全上の支障が出ないこと。
→悪臭や騒音等ですね。ただ、これは全て処理基準を遵守せよ、と言っている訳ではありません。これは後述します。
(4)「試験」に相応しい内容。
→既に世の中に普及している技術では試験する意味がない。「試験」という名を借りての「無許可」にならないようにってことですね。
(5)逸脱している場合は告発せよ。
→これでお分かりのとおり、「実験・実証」行為ってまさに「無許可」行為と紙一重というか、極めてあやうい行為なんですね。
それでも、「実験、実証」という運用はやはり必要だとBUNさんは感じています。
判りやすいのは、15条の処理施設設置許可なので、そちら中心で。(理論構成は14条業許可でもほとんど同じですから)
たとえば、新しい廃棄物焼却炉を設計、建築しようとします。ある程度は今までの実績や物理的な机上の理論でやれるのですが、最終段階では、実際の廃棄物で上手く稼働できるだろうか、いわゆる実証試験が必要になってきます。
その時、「実験実証」の「許可不要」を認めてもらえないと、アセスをやって、専門家の意見聴取をやって、公衆の縦覧に供し、許可申請して、完成検査を受けないと稼働できない。
さらに、実験ですから、当然、不具合も発生する。その不具合が炉本体であれば、炉本体を改造しようとすると、今度は「変更許可」が必要、となってしまう。変更許可の手続きは、新規許可とほとんど同じですから、再度、アセスをやって意見聴取して、公衆の縦覧に供し、・・・・とてもじゃないけど、処理施設の開発なんてできるもんじゃない。
処理業でも似たり寄ったりで、たとえば、動植物性残渣の堆肥化施設により処理業許可を取ろうとする。しかし、堆肥化の技術、特に悪臭対策などは確立されたものは少なく、規模や手法によりケースバイケースにならざるを得ない。
こういった時、14条の業許可の要件として「適確に遂行できる能力」が求められるんですけど、許可する行政としても、申請する事業者としても、最初は証明のしようがない。
そこで、規模を極力小さくして、「試しにやってみて」と実験をやらせたいし、やりたいよね。そのうえで、その実証データを基にして、本番の許可申請の資料としたい。
そんな経緯で示されているのが、前述の平成18年の「通知」といったところでしょう。
なお、この通知には「参考」として「「試験研究」として認める際の規制の明確化に係る事例」までつけていますから実際に試験研究をやろうという方は必ず目を通してみてくださいね。
「実験・実証」行為は、「無許可」行為と紙一重ということをくれぐれもお忘れ無きよう。
BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/
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