リヴァックスコラム

第10回 単回使用医療機器通知を読む

長岡 文明氏

「BUNさんに聞いてみよう」のコーナー。「単回使用医療機器通知を読む」




前回まで令和3年9月に発出されたタスクフォース通知を取り上げましたが、
今回はどんな話ですか?

「タスクフォース通知」と同じ時期に発出された単回使用医療機器を取り上げてみましょう。

「単回使用医療機器」って言葉はわたしは初めて聞くんだけど、どういうものなんですか?

廃棄物分野の人間には聞き慣れない文言ですよね。
私もこの通知で初めて目にしまして、ネットで調べてみました。だから、この文言の説明に関しては、まったくの受け売りです。

単回使用医療機器とは、文字通り一回限りの使用が認められている医療機器で、一度使用したら安全性の観点から廃棄が必要とされている機材のようです。英語では 「Single Use Device」となりますから、略して「SUD」と表示されることもあるようです。

ネット情報によると、アメリカでは
・腹腔鏡用血管シーリングデバイス
・超音波診断用カテーテル
・電極(EP)カテーテル
といったものがSUDとして扱われているそうです。

コロナで時折耳にするエクモなんかもそうなんだろうか?
BUNさん自身も具体的にはどんな器具機材かよくわからないんだけどね。

厚労省HPより拝借。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000170834.pdf

まぁ、それで、単回使用医療機器の中には、一点当たり数万円から数十万円もするような医療機器もあるようです。

そのため、再使用が禁止されているにもかかわらず、国内の一部の医療機関において、病院内で独自に洗浄・滅菌などの処理が行われ、再使用されている事例が発覚し、安全性の観点から問題視されてきたようです。

医療機関と言えども倒産する時代ですからね。
自分で消毒出来るんだったら、ついつい誘惑に負けてしまう悪徳院長も出てくると思います。

でも、単回使用医療機器に関しては素人であるその辺の医師や看護師が安易に院内洗浄・滅菌による再使用すれば、不完全な処理に伴う感染リスクが出てきますよね。

そうだねぇ。
メスや鉗子のように単純な構造の機材なら、オートクレーブや滅菌薬剤による院内洗浄・滅菌で再使用できるかも知れないけど複雑な構造の医療機器となると専門の機材で専門知識を持つ技術者がやらないとリスクは大きいでしょうね。

そのため、そういった医療機器については、性能・安全性を十分に保証し得ないため、院内洗浄・滅菌での再使用は行うべきではないことが世界共通の認識とされているようなんだ。
先進諸外国では、すでに単回使用医療機器の再製造に関する制度が整備・運用されていて、日本でも数年前に再製造制度が創設されたみたいなんだ。

と言うことは、医療分野でもまだ出来立ての制度ってことね。

で、この制度と廃棄物処理法の関係は?

この文言通り単回使用医療機器は「一度使用したら廃棄が必要な機材」なんだから、使用後の物は「廃棄」される。

と言うことは、少なくとも文言上は「廃棄」されることとなり、よって、その時点では廃棄物処理法が適用されるじゃないの?ってことでしょうかね。

廃棄物処理法に慣れ親しんだ身としては「そのとおり」と思うけど、それでなにか問題でも?

物が廃棄物となれば、他者の「物」を運搬する時は収集運搬、たぶん医療機器で血液の付着等もあるだろうから、感染性廃棄物の収集運搬業の許可が必要となるし、それを処理する時は中間処分の許可が必要になる。

当然、収集運搬時には収集運搬基準が適用になるし、処分では処分基準が適用になる。

それも廃棄物処理法に慣れ親しんだ身としては「当然」と思うけど…。

そうは言っても、医療機器、特に高額な精密な医療機器なだけに、廃棄物処理法の基準には合わないようなところも出てきてしまうらしい。また、外国製の単回使用医療機器については、製造国に返した後に処理しなければならないケースもあり、これが「廃棄物」となると、環境大臣の「廃棄物の輸出の確認」を一回一回受けなければならなくなる。
さらに、なんといっても単回使用医療機器に関しては、医薬品医療機器等法という法律で、その取り扱い等の基準、承認制度等が規定されている。

関係者からは、そんな専門的で厳しい法律が適用されているのに、さらに廃棄物処理法を適用するのはいかがなものかって意見が出ていたらしい。

それで今回の通知に繋がったって訳ですね。ようやく、通知の中身に入れるね。

じゃ、普段は取り上げない「文頭」部分から見ていこう。

環循規発第2109091 号
薬生機審発0909 第1号
令和3年9月9日

各都道府県・政 令 市 産業廃棄物・衛生主管部(局) 長 殿

環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課長
厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長

単回使用の医療機器の再製造 等 に係る 取扱いについて

環境省と厚労省、2つの省の課長さん名で、各県の産廃担当と衛生担当の部長さんに宛てて出しているんですねぇ。

公文書の差出人、宛先人についてはリヴックスコラムの「通知とはなにか」ってことで説明してるよね。

「通知」はお役所の一担当官が自治体の担当者宛に発出しているものだけど、受け取った自治体では、たいていは、その通知のとおり運用、行政指導するので、実質的には法令と同じように世の中では「通知のとおり」に行われていくってことでしたね。

そのとおり。
それでお役所はまさに「お役所仕事」だから、縦割り行政。他人の仕事については権限も無く口出し出来ない。だから、廃棄物処理法に関しては環境省が、医療関係については厚労省が通知しているってことだ。

連名で発出していることに意味はあるの?

各業務ごとに各担当に通知してもいいんだろうけど、連名で発出することによって、「少なくともこの通知に書いてあることは、お互いの省庁で了解済みのことですよ。」って示しているんだね。

自分担当の業務に都合良く解釈しているんじゃ無いことを示している訳ですね。

さて、次の本文はさっき説明したことの復習になるけど見ていこうか。

単回使用の医療機器(1回限り使用できることとされている医療機器をいう。以下同じ。Single use Device; SUD)の再製造(単回使用の医療機器が使用された後、新たに製造販売をすることを目的として、これに検査、分解、洗浄及び滅菌その他必要な処理を行うことをいう。以下同じ。)及びこれに必要な単回使用の医療機器の収集、運搬、保管等(以下「 単回使用の医療機器の 再製造等」という。)については、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和35年法律第145号。以下「医薬品医療機器等法」という。及び医薬品医療機器等法関連法令(以下医薬品医療機器等法と併せて単に「 医薬品医療機器等法関連法令」という。)によりその方法が定められているところです。
今般、下記のとおり取り扱うこととしましたので、御了知の上、貴管内関係業者に対し周知方御配慮お願いいたします。
本通知は、令和3年9月9日から施行します。

まっ、読めばわかると思うけど、語句の説明と短縮形について書いている。

続けて見ましょう。

医薬品医療機器等法関連法令に従って行う単回使用の医療機器の再製造等に当たっては、医薬品医療機器等法関連法令が廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第第137号。以下「廃棄物処理法」という。)に優先して適用されるため、廃棄物処理法の規定によらず、医薬品医療機器等法関連法令の規定に従うべきこと。

日本語としては「単回使用医療機器の取り扱いに関しては、廃棄物処理法より医薬品医療機器等法関連法令が優先する」ってことですよね。

でも、それはどうして?環境省より厚労省の方が偉いとか歴史があるとかなの?まさか担当者がじゃんけんして負けたから、なんてことじゃないでしょう。

日本の法律制度では「一般法」と「特別法」という概念があるらしいんだ。

「一般法」って一般廃棄物を決めていて、
「特別法」って特別管理廃棄物を規定している法律

・・・じゃないですよね。

即座に廃棄物処理法の専門用語が出てくるとはたいしたもんだけど、残念ながらちょっと違う。

一般法とは、世の中の大抵のことに広く適用される法律。
一方、特別法とは、一般法が適用される事項のうち、特定の事項に限定して適用される法律のこと。

よく法律学者は「民法を一般法とするなら商法は特別法。商法を一般法とするなら宅建業法は特別法、などと例示するね。

なんか、かえってよくわからないです。

ん~、BUNさんも法学を系統立って勉強した訳じゃないので厳密に言うと正しくないのかもしれないけど、次のような例示の方が素人にはしっくりくるかな。

たとえば、刃物で人を傷つけていけないってことは、刑法で広く世の中に適用されている。

そりゃ、そうですよ。ナイフで人に切りつけたら、傷害罪で警察に捕まります。

でも、毎日、人を刃物で切り裂いている人がいるよね。

大門未知子に代表される外科医ですね。

外科医は警察に捕まっているかな?

外科手術する度に外科医が警察に捕まっていたら、手術してくれるお医者さんがいなくなるよ。

これがまさに一般法と特別法の関係かなぁと思っている。世の中の人全部に刑法という一般法が適用され、刃物で人を切り裂いたら普通は捕まる。
しかし、刃物で切り裂いても医師法という法律で規定される外科手術は一般法である刑法は適用されない。

はぁはぁー、これが「特別法は一般法に優先する」ってことですね。

今回の通知では、普通、一般的には廃棄物を処理する時は廃棄物処理法が適用され、廃棄物処理法の基準が適用されたり、業許可が必要なんだけど、単回使用医療機器の取り扱いについては医薬品医療機器等法という特別な法令が適用されるから、廃棄物の処理については一般法である廃棄物処理法は適用されないって理屈なのね。

でもさぁ、なんかの法律で「Aと言う法律はBという法律の特別法になる」って規定しているの?

そこが実はやっかいなところなんだ。
PCB特別措置法など一部の新しい法律では規定している例もある。

明文化している一例、PCB特別措置法
第一条 
2 ポリ塩化ビフェニル廃棄物の処理については、この法律に定めるもののほか、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号。以下「廃棄物処理法」という。)の定めるところによる。

「この法律に定めるもののほか」って規定しているでしょ。
すなわち、「この法律」で定めることは、「この法律」を優先して適用するんだ、と明示していて、よって、PCB特別措置法は廃棄物処理法の特別法に位置付けられる、とわかる。

でも、多くは、そのような規定は明文化していないんだ。
今回の例でも医薬品医療機器等法で「単回使用医療機器の処理については、この法律に定めるもののほか、廃棄物処理法の定めるところによる。」なんて条文は無い。

それは困ったね。廃棄物処理法だけでも、廃棄物処理法の特別法にあたる法律を明示して欲しいよ。

廃棄物処理法の特別法にあたる法律は、一応、その法律の中で「処理基準」にあたる内容が規定されている法律ってルールではあるようだね。

今まで通知で明言している法律としては、水質汚濁防止法、下水道法、鉱山法、家畜伝染病予防法などがあるよ。

へぇー!医薬品医療機器等法より私はこっちの法律の方が馴染みがあるね。

たとえば、どのような時に一般法と特別法の関係になっているか説明してみて。

たとえば、廃酸・廃アルカリは産業廃棄物だね。これを河川に捨てていいかな?

そんなのいいわけないじゃない。不法投棄ですよ。

ところが、その辺の工場ではたとえばPH6.8、すなわち廃酸の排水を川に放流しているよね。いいのかな。

そう言われればそうですね。どういう理屈なんですか?

河川に排水管を使用して排水を放流する行為は、水質汚濁防止法で規制されている。
「規制対象事業所」と言われる大きな工場でも、PH5.8から8.6までは「排水基準をクリアしている」として認められている。すなわち、「排水を河川に放流する」という行為については「水質汚濁防止法は廃棄物処理法の特別法」と考えられるので、廃棄物処理法は適用しないんだ。
もちろん、「廃液をタンク車で河川に捨てる」という行為には、廃棄物処理法が適用されて不法投棄で捕まるよ。

へぇぇ、面白い!他には?

リヴさんは豚コレラ(ブタ熱)や鳥インフルエンザの時のテレビ放送で、畜舎の近くに穴を掘って埋めたり、鶏舎の近くでもうもうと黒煙を上げて焼却している映像を見たことはないかな。

琉球新報、2020年1月9日 09:39動画ニュース

あります、あります。
あれは以前から「不法投棄」や「野焼き」じゃないかって疑問に思っていたんですよ。

廃棄物処理法では「最終処分場以外の場所に廃棄物を埋立処分してはいけない。不法投棄。」とか「野焼きしてはいけない」とか規定しているけど、一方で、家畜伝染病予防法では感染が拡大することを防ぐために「患畜の移動禁止。その場で埋却、焼却処分すること」という規定がある。廃棄物処理法の規定と家畜伝染病予防法の規定がバッティングを起こすわけだね。

こちらを立てれば、そちらが立たずって状態ね。

そこで、患畜に関しては家畜伝染病予防法でその処理方法は規定されているのだから、その時は廃棄物処理法を適用させない。すなわち、不法投棄や野焼き禁止規定は適用しない。

患畜に関しては家畜伝染病予防法は廃棄物処理法に優先する特別法という位置付けになる訳だね。

なるほどねぇ。少しはわかった気がする。

でも、改めて考えてみると、単回使用医療機器って、大抵は高額な物なんでしょ。そして、一定のルールの下では滅菌、洗浄して再利用することになるんですよね。そういった物なら買い取られていくんじゃないの?そういう物まで廃棄物なのかなぁ。

そういう物にも一般法と特別法の関係を当てはめるんだろうか?
逆に単回使用医療機器に該当する機材でも、医薬品医療機器等法の規定に従わないで本当に「捨てる廃棄」をした場合はどうなるのかなぁ。

するどいところに気がつくようになったね。偉いぞ。
そういうまともな質問も出るだろうと言うことで、この通知にはQ&Aも添付している。
是非、実際に関係する人はこちらも読んでみてね。

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