リヴァックスコラム

第11回 【番外編】読者からの質問

長岡 文明氏

第10回「単回使用医療機器通知」のコラムを読んだ読者の方から質問をいただきました。私が代読するのでBUNさん答えてくださいな。

『質問、今回のコラムを読んで、六甲山牧場の不法投棄の事件を思い出しました。

(”死んだ動物約60体埋めて処理 神戸の六甲山牧場”、産経新聞社、2020-3-19、
https://www.sankei.com/article/20200319-OHUPT4QB7RKSZNWN5JKNNCD7BM/

この事例では、特別法の家畜伝染病予防法ではなく、一般法の廃棄物処理法が適応された例となりますが、その違いは患畜か、そうじゃないかという認識合ってますでしょうか?』

はい、はい、ご質問どうもありがとうございます。
コラムを書いていても何の反応も無いと、「皆さん、読んでいてくれるのかなぁ」と不安になりますが、こうして質問をいただくと書き甲斐があるというものです。

ご質問は前回の「一般法と特別法の関係」のところの次の箇所についてですね。

>廃棄物処理法では「最終処分場以外の場所に廃棄物を埋立処分してはいけない。不法投棄。」とか「野焼きしてはいけない」とか規定しているけど、一方で、家畜伝染病予防法では感染が拡大することを防ぐために「患畜の移動禁止。その場で埋却、焼却処分すること」という規定がある。廃棄物処理法の規定と家畜伝染病予防法の規定がバッティングを起こすわけだね。

答えとしては、「ご質問のとおり」です。
すなわち、家畜伝染病予防法では伝染病の予防という観点から、「患畜の移動禁止。その場で埋却、焼却処分」という規定があります。
しかし、質問者が提示された六甲山牧場の不法投棄の事件で捨てられた「家畜の死体」は、こういった特別ルールが適用になった訳ではないですね。

したがって、「廃棄物の処理」ということについては、広く社会全体に適用になる「一般法」の廃棄物処理法が適用になり、不法投棄罪が成立する、ということになりますね。

なるほど。ここまでは前回の復習ですね。質問者は次の質問も提示されています。

『質問、ペット等の取扱いについては、動物の死体であっても一般廃棄物として対象としない、という疑義応答がありました。
https://www.env.go.jp/hourei/11/000296.html

六甲山牧場の飼育員は「弔いの気持ちから土葬を行った。」とあったので産業廃棄物と一般廃棄物の違いがあるとはいえ不法投棄になるのは、少し判断が難しいと思いましたが、先生はどうお考えでしょうか?』

ホッホー。質問者の方はだいぶ廃棄物処理法を勉強なさっている方ですね。頼もしいです。

ご質問にある旧厚生省と兵庫県との疑義応答の他にも、愛玩動物の死体やペット霊園については過去に幾つかの疑義応答があります。

昭和五四年一一月二六日通知疑義応答集
(平成五年三月三一日 衛産第三六号通知疑義応答集においてもこの質疑については全く同じ)
問28
動物霊園事業として愛がん動物の死体を処理する場合廃棄物処理業の許可を要するか。
答 愛がん動物の死体の埋葬、供養等を行う場合、当該死体は廃棄物には該当せず、したがつて廃棄物処理業の許可を要しない。

平成六年八月一二日 衛環第二四三号
研究機関等から排出される実験動物の死体の処理について
厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長通知
4 愛玩動物の死体(墓地埋葬及び供養される場合に限る。)は、法第二条第一項に規定する廃棄物に該当しないため、動物霊園業者等が当該死体を取り扱う場合については法第七
条第一項及び第四項に規定する許可は不要である(昭和五十二年八月三日環計第七十八号厚生省環境衛生局水道環境部計画課長通知参照)。ただし、当該事業者が実験動物の死体の処理を行う場合にあっては許可が必要であること。

これらいくつかの疑義応答の答えはいずれも「廃棄物処理法を適用しない」というものです。

でも、六甲山牧場の事案では廃棄物処理法が適用されて、不法投棄として処理された訳です。
なぜ、そのような結論になったのでしょうか?

それでは、質問や通知を分解して考えていきましょう。

質問者は「産業廃棄物と一般廃棄物の違いがあるとはいえ」とおっしゃっていますが、廃棄物処理法上は不法投棄に関しては、産業廃棄物であろうと一般廃棄物であろうと関係ありません。

現行法(投棄禁止)
第16条 何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。

昭和46年の時点
第16条 (投棄禁止)
 何人も、みだりに次に掲げる行為をしてはならない。
1 第6条第1項に規定する区域内又はその地先海面において廃棄物を捨てること。
2 第6条第1項に規定する区域以外の区域内における下水道又は河川、運河、湖沼その他の公共の水域に一般廃棄物を捨てること。
3 第6条第1項に規定する区域以外の区域内又はその地先海面において産業廃棄物を捨てること。

ちょっと今回のテーマから外れますが、実は平成3年の改正までは、不法投棄の規定は一般廃棄物と産業廃棄物では違っていたんです。さらにその後、平成15年の改正までは一般廃棄物の不法投棄と産業廃棄物の不法投棄では罰則に違いがありました。

でも、不法投棄された廃棄物の中にはそもそも一般廃棄物であるのか産業廃棄物であるのか不明な物も多くあります。

たとえば?

そうですねぇ。たとえば、廃タイヤが捨てられていたとして、もし、これが事業用の車両からのものであれば産業廃棄物でしょうし、自家用車からのものであれば一般廃棄物となるでしょう。ましてや、業種の指定がある動植物性残渣などの場合は判別が着きにくく、立件する検事さんもどの程度の罰を求刑してよいかわからなくなってしまいます。

そのため、平成15年の改正で罰則についても一廃、産廃の区別を一切無くしました。だから、不法投棄事案に関しては捨てられていた「物」が一般廃棄物なのか産業廃棄物なのかを区別する必要性はあまりないのです。

なるほど。で、ペットの死体というのは一般廃棄物なんですか産業廃棄物なんですか?

急に素人のようなことを質問しますね。産業廃棄物は法律と政令で規定している20種類に限定されている。そして「動物の死体」は排出事業種が限定されていましたね。

そうだ、そうだ。動物の死体が産業廃棄物になるのは「畜産農業」に限定でしたね。

六甲山牧場は「牧場」という位ですから「畜産農業」と判断されたんでしょうね。
これが「動物園」となれば、日本標準産業分類では「教育学習支援業」という業種になりますから、産業廃棄物とはならず、したがって一般廃棄物ということになります。

さて、質問に戻りますが、
そもそも、どうして「愛がん動物の死体は廃棄物には該当せず」なのでしょうか。

おっと、そうでしたね。「もし、廃棄物であるなら一般廃棄物」ということを説明しましたが、そもそも「廃棄物ではない」と言っている訳ですね。
また話が逸れてしまいますが、こういった疑義応答を読むときには、なるべく近視眼的にはならないように広い視野で応用が利く捉え方をしないと切りがありません。

と言うと?

愛玩動物だからこういう解釈になるのか。じゃ、実験動物だったらどうか?動物ではなく植物ならどうか?廃家電ならどうか?などと言ったら切りが無くなります。

だから、「愛玩動物だから許可不要」と短絡的に捕らえるのではなく、どうしてこのような回答になったのか、を推察してみることが大切でしょう。

へぇーたとえばどのようにですか?

今回の質疑応答のポイントは、まさに「物は有価物か廃棄物か」でしょうね。

なるほど。愛玩動物の死体に限らず、「物」が廃棄物でなければ、廃棄物処理法は適用されず、したがって「許可も不要」であるし「不法投棄」にもならないってことになる訳ですね。

でも、どうして愛玩動物の死体は「廃棄物では無い」と判断されるのでしょうか?

それは先ほどの疑義応答の中にヒントがあります。
「埋葬、供養等を行う場合」とありますね。ポイントはここでしょう。

「物」が有価物か廃棄物かはどのようにして判断されるのでしたっけ?

「総合判断説」ですね。思い出しました。
「物が有価物か廃棄物はいろんな要素を総合的に判断して決まるんだ」って説でしたね。

正解。それでは、その「いろんな要素」とは?

ん~、降参です。そこまでは覚えていません。

「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「占有者の意志」という5つの要素が最高裁判決でも示され、「行政処分の指針」の中でも解説が成されていますよ。

今回の疑義応答もまさにこの5つの要素から「廃棄物には該当しない」と判断されたものと思われます。

具体的には?

なんといっても先に述べたように「埋葬、供養等を行う場合」ですから、まず「占有者の意志」としては「大切に扱わなければならない。」という意志が明白に具体的に表れますね。

これが、生きているうちは可愛がっていたとしても死んだ途端に興味を無くして、放置して腐っている、なんて状態では「埋葬、供養等を行う場合」とは言わないでしょうね。

でも、先生、六甲山牧場事案でも記事によれば飼育員によっては「弔いの気持ちもあった」と書いていますよ。

「気持ち」「思った」は第三者の肉眼では判別付きません。
そこで「行政処分の指針」では「占有者の意志」については、「客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る占有者の意思」、さらに「放置若しくは処分の意思が認められないこと」と述べています。

はぁっはぁ。

つまり、言葉だけ「弔う気持ちがあった」と言っていても、現実的には、単に穴を掘って埋めていただけとか、経費節減のためとか、搬出するのが面倒くさいから、といった状況が見て取れるようならやはり「廃棄物として処分した」と解釈されるってことですか。

それに他の要因としても、食肉や皮革の原料となるので買い取られている、というなら別でしょうけど、記事によると「死因の多くは死産や老衰」とありますから、他人が買い取ってくれるような状況ではないのでしょうし、当然、同じような状況の「物」が世間一般で広く売り買いされているというものではないでしょう。

なるほど。
そうなると「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「占有者の意志」という5つの要素、全てにおいて六甲山牧場事案の「物」は廃棄物と判断され、よって、不法投棄罪が成立するってことになる訳ですね。

一方、「埋葬、供養等を行う場合」となると、「占有者の意志」としては「弔ってあげたい」でしょうから、ぞんざいには扱わないでしょう。
また、そのように扱っているのであれば世間一般の人達もその「物」を「廃棄物である」とは認識しないでしょう。そして、なんといっても、そのような状況の「物」なら不法投棄はしませんよね。

すなわち、廃棄物処理法という厳しい基準を適用しなくても社会的に支障が無い状況と言うことです。

こういった理由から、愛がん動物の死体の埋葬、供養等を行う場合、当該死体は廃棄物には該当せず、したがって廃棄物処理業の許可を要しない。となる訳ですね。

なお、当然、弔う意志がなく、放置、投棄した、という場合は、廃棄物処理法が適用されて不法投棄で検挙された事例も過去にありました。
また、廃棄物処理法の適用外としても、感情的に自分の家の近くに動物霊園が作られることに忌避感を覚える人はいます。

自分が可愛がっていたペットならまだしも、他人が飼っていた犬猫の死体が自宅の近くに埋められるっていうのは私も良い気持ちはしないです。

そんな訳で、動物霊園の設置や運営には住民トラブルも結構あり、そのために自治体によっては条例や指導要綱を制定しているところもあります。
単に、廃棄物処理法上適用にならない、というだけでなく他法令や地域の実情にも配慮した対策は求められると思います。

今回は前回のコラム「単回使用医療機器通知を読む」を読んでいただいた読者の方の質問にお答えするということで進めてみました。参考になったでしょうか。

皆さんも、疑問に思うことがあったらリヴァックス宛てに質問よろしくね。~~(^^)/

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