リヴァックスコラム

第13回 残置廃棄物の取扱いについて

長岡 文明氏

「環境省の通知の背景と内容解説」シリーズ」も、2年目となりました。引き続きよろしくお願いいたします。

さて、今回取り上げる通知は、比較的新しく、昨年、平成26年2月3日に発出された「建築物の解体時における残置物の取扱いについて(通知)」というものです。(詳しくは下記URLにて)

https://www.env.go.jp/hourei/add/k045

この通知の趣旨は、「建物の解体前から存在していた廃棄物は、解体工事の元請が排出事業者ではなく、元々の所有者、使用者、占有者、管理者の廃棄物だから気をつけてね」というもので、あたりまえといえば至極当たり前の話なのです。

実は、この「残置廃棄物」の考え方は、既に30年以上も前の疑義応答にも登場していました。

 


<通知の詳細>

昭和56年10月30日環産第47号(S57,H6に改訂、H12に廃止)
廃棄物の処理及び清掃に関する法律の疑義について

(建設工事の現場から搬出される産業廃棄物)
問15 事業者Aが発生させていた産業廃棄物Ⅹ及び建設業者Bが建設工事に伴って生じさせた産業廃棄物Yがいずれも建設工事の現場からBにより搬出される場合、いずれの産業廃棄物も排出者はBであると解してよいか。
答 Ⅹの排出者はAでありYの排出者はBである。建設工事に伴って生ずる廃棄物には建設工事を行う以前から発生していた産業廃棄物は含まれないことに留意されたい。

さて、このことがなぜ重要なことかと言うと、排出事業者が違えば、委託責任や、許可の必要な人物が違ってきてしまうということが挙げられます。

たとえば、甲→乙→丙と廃棄物が動くときを考えてみましょう。まず、排出者である甲が乙まで運搬する場合は、「自ら運搬」となり、甲は許可も要りませんし、運搬に関しては委託していませんから、委託基準もかかりません。
次に甲が排出者である廃棄物を、乙→丙に運ぶ行為は、乙は「他者である甲」の廃棄物を運搬することになるので、乙は収集運搬業の許可が必要になりますし、甲は乙に運搬を委託している、となりますから、甲には委託基準がかかります。
これが原則です。

ところが、廃棄物処理法に馴染みのない方にとっては、ちょっと違和感があるケースがいくつか出てきます。


<事例>

たとえば、古い建物を所有している人物が、「この建物はもう要らないや」と認識して、建物の解体を解体業者に委託したとします。さて、建物の解体に伴って発生した「コンクリートの欠片」や「木くず(柱や梁の木材等)」は、誰が排出者なのでしょうか?

もし、元々の建物の所有者が排出者だとすると、建物が建っている時点で、既に「廃棄物」となり、建物を解体する工事自体が「廃棄物の中間処理行為」となってしまいます。
この建物が一般住宅であったならば、排出者は一般人となり、(解体予定の)建屋は「事業活動を伴わずに発生した廃棄物」との概念により、解体工事は「一般廃棄物の中間処理」となり、発生した「コンクリートの欠片」や「木くず(柱や梁の木材等)」は、一般廃棄物となってしまいます。すなわち、発生する「コンクリートの欠片」や「木くず(柱や梁の木材等)」は、市町村に処理責任が行ってしまうと言うことになってしまいます。

これを避けるため、解体工事は「解体前に廃棄物としての建屋がある」という概念ではなく、「解体工事という事業活動により廃棄物(コンクリート殻や木くず)が発生した」という考え方を採っています。つまり、建築物は、建っている状態においては、いくら所有者が「もう、この家は要らない」と認識していても、原則的には廃棄物処理法の適用は受けず、「まだ、廃棄物ではない」という概念です。

したがって、解体した建物が、いくら一般住宅であっても、発生する廃棄物は「解体」という「事業活動を伴って」と解釈し、「廃棄物の排出者は、その解体工事を行った者である。」という解釈をしてきました。

昭和57年2月8日に発出された「建設廃棄物の処理の手引き」(「建設工事から生ずる廃棄物の処理に対する指導の推進について」環産第三号。この通知は廃止されていますが、日環センター刊行「廃棄物処理法の解説」で見ることができます。)以降、原則的にはこの考えに従って運用してきたのですが、いくつか裁判事例もあり、また、建設廃棄物については不法投棄をはじめとする不適正な処理も多いことから、平成22年の廃棄物処理法改正で第21条の3という条文を新たに制定し、法律上も明確にしました。


<参考条文>

(建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理に関する例外)
第二十一条の三  土木建築に関する工事(建築物その他の工作物の全部又は一部を解体する工事を含む。以下「建設工事」という。)が数次の請負によつて行われる場合にあつては、当該建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理についてのこの法律(第三条第二項及び第三項、第四条第四項、第六条の三第二項及び第三項、第十三条の十二、第十三条の十三、第十三条の十五並びに第十五条の七を除く。)の規定の適用については、当該建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者から直接建設工事を請け負つた建設業(建設工事を請け負う営業(その請け負つた建設工事を他の者に請け負わせて営むものを含む。)をいう。以下同じ。)を営む者(以下「元請業者」という。)を事業者とする。

この条文について、詳しく解説した「建設廃棄物処理指針」は次のアドレスで確認できます。

http://www.env.go.jp/hourei/add/k035.pdf

ところが、この「建設工事にからむ廃棄物の排出者は、元請業者である」ということが曲解されたのか、本来は「建設工事から発生したのではない」廃棄物にもかかわらず、全て建設工事の元請業者に「押しつける」という事案が発生してしまいました。


<事案内容>

特に2012年に東海地方のH市の公園管理者が起こした事案は、14年に市が書類送検の対象となったことで、世間を騒がせました。

この事案は、公園において建設工事が行われたようなのですが、その折に、工事が行われる前から既に公園の片隅に集められていた廃タイヤやコンクリート殻、自転車なども、その工事業者に「ついでに」処理させてしまった、ということのようです。(なお、この事件において送検された市役所そのものは、結局は不起訴となりました)整理をしましょう。

現在は、解体工事に留まらず、「建設工事における排出事業者には、元請業者が該当する。」 です。

しかし、これはあくまでも「建設工事における」であり、建設工事に無関係な廃棄物は工事業者の廃棄物ではありません。その典型的な事例として、工事が行われる前から、既に存在していた廃棄物がこれにあたります。
この「建設工事が行われる以前から既に存在していた廃棄物」のことを、法令の文言ではありませんが「残置廃棄物」と呼称しています。「残置廃棄物」の処理責任は当該建築物の所有者等にあります。
したがって、建設廃棄物として排出される場合と、残置廃棄物として排出される場合では、一般廃棄物と産業廃棄物との判断が違う場合が出てきます。


<残置廃棄物の一般廃棄物と産業廃棄物の取扱いについて>

たとえば、「木くず」です。
建設廃棄物として排出される「木くず」は、元請業者が排出事業者、すなわち省令第2条第1項第2号の「木くず(建設業に係るもの(工作物の新築、改築又は除去に伴つて生じたものに限る。)」に該当しますから、これは産業廃棄物となります。

ところが、事務所として使用していたビルの解体工事であっても、木製の机などが「残置廃棄物」として排出される場合は、排出者は元々の事務所の管理者であり、「建設業に係るもの」ではないことから、これは一般廃棄物となってしまいます。
もちろん、一般住宅の場合は、どんな廃棄物が出てきても「事業活動を伴っていない」ことから、一般廃棄物となります。

このことを残置廃棄物通知では「残置物はその排出状況及び性状により一般廃棄物又は産業廃棄物となる。」と表現しているのです。

ただ、これも現実的には判断に困るケースも出てきます。一例を挙げれば「棚」です。
簡単に移動可能な、いわゆる「カラーボックス」のようなものは、これは「残置廃棄物」となるのですが、「据え付けられていた戸棚」あたりになると、果たして、「残置廃棄物」としてよいのか、建設廃棄物として元請業者に任せていいんだろうか?
質問も多いのは「計装板」や大型機械類等ですが、結局のところケースバイケースにならざるを得ないボーダーラインの廃棄物も出てきますので、そのようなときは最寄りの行政窓口に相談されることをお勧めしておきます。


<まとめ>

今回は、「残置廃棄物」通知を例として、「排出事業者が違うと法令の適用関係が変わるから要注意」という話をしました。
このことは清掃廃棄物、下取り廃棄物、掘削廃棄物(いずれも法定文言ではありませんが、廃棄物処理業界では、割と知られた文言です。)の時にも必要な知識となり、それなりの通知も出ていますから、リクエストがあれば、いつの日かまた取り上げてみたいと思います。

BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

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