リヴァックスコラム

第三回「食品廃棄物不正転売事件」について ~その3~

尾上 雅典氏

今回も前号に引き続き、環境省が平成28年3月14日付で公表した「食品廃棄物の不適正な転売事案の再発防止策」に関する考察を行います。

今回は、「廃棄物処理業者に係る対策:透明性と信頼性の強化」面について考えます。

  まず、「監視体制の強化」として、「都道府県に対して、産業廃棄物処理業者への抜き打ちの立入検査など、監視強化の取組について改めて通知」とありますが、立入検査というものは、そもそも抜き打ちで行うのが当たり前なのです。その当たり前のことを環境省がわざわざ挙げなければならないほどに、立入検査日を事前通告している地方自治体が多いということなのでしょう。

 次に、「食品廃棄物の不正転売に係る立入検査マニュアルの策定を検討」については、実現すれば便利な道具になるかもしれませんが、実際には、それを実現させるのはほぼ不可能です。
なぜなら、定型化された指針に則って愚直に〇か×かの評価をするだけで、相手の行動の真意を見抜くことは不可能だからです。犯罪に関する警察の捜査や取り調べ手法を例とすると、捜査の基本は、物的証拠と照らし合わせることで被疑者の主張の真偽を明らかにすることであり、捜査を行う者自身に、被疑者の主張と証拠の間の矛盾に気づく力が無ければ、捜査は一向に進みません。
行政の立入検査もそれと同じ構造にありますので、定型化の極致であるマニュアルを分厚くするだけでは、行政官の矛盾に気づく力を削ぎ落とすことになり、逆に危険かもしれません。
環境省がやるべきことは、マニュアルを充実させることではなく、多数の廃棄物処理法違反事例や、行政対応の失敗事例を収集し、それを公開することではないでしょうか。
「現実に起こっている事象」と、「どこが違法だったか」「どのような対応をすれば良かったか」を関連付けしない限り、行政官自身に矛盾に気づく力を身に着けさせることはできないと思われます。

 また、「適正処理の強化と人材育成」については、いずれも不正転売事件が起こった背景とは無関係に思えます。もちろん、適正処理は重要ですし、処理業界を担う人材育成もした方が良いのは間違いありません。
しかし、再発防止策の主眼として、「(処理業界の)人材育成」が掲げられていることには大きな違和感があります。
 「処理状況の積極的な公開」が必要なことには同意できますが、その手法として、定型化された「排出事業者による現地確認の際に参考となるチェックリストの整備」では問題が解決しないことは、先に述べたとおりです。
 「優良事業者の育成・拡大」という理念自体は美しいですが、“優良”という二文字が、実態以上の「安心感」や「信頼性」を付与してしまう点に注意が必要です。
他業態では、「優良建設会社」や「優良運送事業者」という公的なブランド名称をあまり聞かないことを考えると、廃棄物処理業界にもそのように飾ったブランド名称は不要なのではないでしょうか。「優良事業者」という形式的な格付けを頼りにするのではなく、自社の価値に対する自信をもっと深めて、堂々と世にそれを問えば良いと思います。

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