リヴァックスコラム

第19回 廃プラ処理の円滑化通知を読む その2

長岡 文明氏

前回から令和元年に発出された「廃プラ処理の円滑化通知」を読んでみて、現在の日本の廃プラスチック類の状況を改めて見直ししています。
プラ資源循環法も施行され1年が経過し、ようやく「製造・販売者自主回収認定」や「排出事業者自主回収認定」も行われたようなので、いい機会かなぁと思います。

前回は、「通知」の概要をざっと見たわけですが、今回はどんなお話しなんですか?

はい。今回はこの通知で特にBUNさんが注目した点を深掘りしていきたいと思います。

まずはこちらから。

1.通知の微妙な言葉の使い分け。一般廃棄物と産業廃棄物。

まず、通知の冒頭を見て下さい。

どれどれ。次の箇所ですか。

産業廃棄物に該当する廃プラスチック類については、年間約700 万トン程度が排出されているところ、平成29 年末の中華人民共和国を始めとする外国政府による使用済プラスチック等の輸入禁止措置以前は、年間約150 万トン程度のプラスチックくずが資源として輸出されていたが、平成30 年の輸出量は約100 万トン程度にとどまっているところである。

はい。実は、この文章、「。」はたったの一個、つまり一文なのですが、
廃プラスチック類を議論するときに、注意しなければいけない点がいくつか出てきています。

ほぉー、それは具体的には?

まず、「産業廃棄物に該当する廃プラスチック類については」と書いていますね。

と言うことは、廃プラスチック類には産業廃棄物と・・・

一般廃棄物があるってことですね。

まぁ、それは当然のことですが、廃プラスチック類って指定業種はなかったですよね。事業活動を伴って排出されれば、どんな業種から出てきても、産業廃棄物。
つまり、一般廃棄物の廃プラスチック類って、家庭生活から排出されたものだけってなりますかねぇ。

平常状態なら「そのとおり」「正解」なのですが、最近は無視できない状況も出てきています。

それはなんですか?

「災害廃棄物」です。災害は事業活動ではありません。
天然のエネルギー、自然現象により廃棄物が発生してしまいますので、災害廃棄物は一応、一般廃棄物という括りにしていると思います。

災害は最近多いですからねぇ。はい、じゃ、次お願いします。

この産業廃棄物である廃プラスチック類は「年間約700 万トン程度が排出」なんですね。
一般廃棄物である廃プラスチック類の排出量については触れていません。量が少なくて議論する必要が無いのか、統計資料が無くて触れていないのかは不明です。

「統計資料が無い」ってどういうことですか?

多くの市町村では、一般廃棄物は昔は「燃えるゴミ」と「燃えないゴミ」という分類でした。
廃プラスチック類は市町村によっては「燃えるゴミ」に、また、別の市町村によっては「燃えないゴミ」に分別していたのです。

また、最近は、容器包装リサイクル法や家電リサイクル法等の各種リサイクル法によって、
「一般廃棄物である廃プラスチック類」であっても、市町村の処理ルートには乗らないものも数多くあります。
そのため、「一般廃棄物たる廃プラスチック類」の真の値ってなかなかわからないのかもしれません。

ふぅ~ん。そんなものですか・・。
廃棄物である廃プラスチック類も一般廃棄物と産業廃棄物があり、産業廃棄物の廃プラスチック類の排出量はほぼほぼ判るけど、「一般廃棄物である廃プラスチック類」は排出量もよく判らないってことになるんですね。

2.産業廃棄物である廃プラスチック類排出量

ところで、この産廃廃プラスチック類年間約700 万トンとのことですが、この数値は年によって大きく変わるものなのでしょうか?

環境省は旧厚生省の時代から産業廃棄物の排出量を統計的に調査しているんだけど、廃プラスチック類の排出量は次のとおりだね。
1996年-657万トン、2001年-547万トン、2006年-609万トン
2011年-571万トン、2016年-684万トン、2020年-694万トン

へぇ~、減ったり、増えたりだね。でも、概ね600万トン台ってとこね。

産業廃棄物の排出量なんて、有効数字1桁程度しかあてにならないから、この四半世紀「ほぼ変わらず」ってことでしょうね。産業構造ってそんなに急激に変わるもんじゃ無いから、いくら「減量化」「リサイクル」と叫ぼうが、産業廃棄物の排出の状況も、そんなに急激に変化するもんじゃないんだ。これは他の産業廃棄物でも同じ事で、比率もほとんど同じなんだよ。

せっかくだから、1996年と2020年のデータも掲載しておきましょう。

 

ほんとだ。量も順番も比率も25年前と大差ないんですねぇ。

3.「使用済プラスチック等」

じゃ、話題を廃プラスチック類に戻して、次の注目点は?

「使用済プラスチック等の輸入禁止措置」ここで使用している「使用済プラスチック等」です。

それがなにか?

さっきの表現は「廃プラスチック類」でここでは「使用済プラスチック等」でしょ。

言われてみればそうですね。どこが違うの?

「使用済プラスチック等」には、(おそらく)有価物であるプラスチック類も含まれているのだと思います。つまり、廃棄物処理法上の「廃棄物」とは見られないプラスチックです。

A社では使用済みで不要となったけど、
B社では「原料として使用できるから、我が社で買いましょう」というレベルのものですね。

そうだねぇ。物が有価物か廃棄物かは・・・・

総合判断説でしたね。

それはもう何回も聞きました。「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「占有者の意志」という5つの要因を総合的に判断して、初めて物は有価物か廃棄物か判るって言う、とてもやっかいな理論でしたね。

そのとおり。だから、この「使用済プラスチック等」というのは廃棄物処理法上では「廃棄物である廃プラスチック類」と「一旦使用したが、有価物であるプラスチック類」の合計という概念になると思う。

ただ、「中華人民共和国を始めとする外国政府による使用済プラスチック等」となると、そのほとんど全部が「一旦使用したが、有価物であるプラスチック類」である。
少なくとも、この時点までは「であった」だと思われるんです。

なんか禅問答のような言い回しだね。どういうこと?

と言うのは、廃棄物処理法の規定で、「廃棄物の輸出」は第15条の4の7で準用する第10条の規定により「環境大臣の確認」を受けなければならないんだ。
だから、密輸で無い限りは、どんな廃棄物がどの位輸出されたかは明確に判る。

で、どうなの?

2019年5月の環境省公表の文章をそのままコピペで紹介しましょう。

平成30年における廃棄物の輸出の状況
(1)廃棄物の輸出報告のあった品目は、全て石炭灰で、輸出の相手国・地域は韓国、香港及びタイであり、全てセメント製造における粘土代替原料又は混和材としての利用を目的とするものでした。

これでお分かりのとおり、廃棄物処理法で規定する「廃プラスチック類」は国外には出ていないんですよ。ちなみに、これは5年後の現在でもほとんど変わっていないようだね。

ちょっと待ってください。じゃ、今取り上げている「通知」の部分は、なんか数値をもてあそんでいるだけにならない。
だって、700万トンの産業廃棄物の廃プラスチック類と「年間約150 万トン程度のプラスチックくずが資源として輸出されていたが」という「プラスチックくず」は別物ってことになり、比較したって意味が無いことじゃないですか。

この通知を起案した環境省の担当者も、苦労したろうねぇ。ここはほんとに難しいところだねぇ。

これはBUNさんの想像だけど、「全く別物とも言えない」だと思う。

どういうこと?

先ほど紹介した産業廃棄物としての廃プラスチック類の排出量というのは、事業所から「廃棄物」として排出された量なんだ。
でも、廃棄物として排出された廃プラスチック類がそのままずっと廃棄物のままじゃないケースも多い。

そうかぁ。リサイクルね。
廃棄物として排出された廃プラスチック類を処理業者さんが、なんらかの処理をして有価物に変えているってことだね。

これもさっきの統計調査結果なんだけど、
廃プラスチック類は排出量の62%が「再生」、23%が「減量」、16%が「最終処分」なんだ。ちなみに、「減量」は、ほとんどが焼却、「最終処分」は「埋立」でしょうね。

と言うことは、排出量700万トンの65%、イコール455万トンほどは有価物に生まれ変わっているってことね。

まぁ、何度も言うように廃棄物の統計数値は有効数字1桁程度しかあてにならないから、
概略だけど、700万トンが一旦産業廃棄物として排出されて、そのうち450万トンがリサイクルされ有価物に変わり、そのうちの150万トンが海外に輸出、したがって残りの300万トンが再び原料等の有価物として使用されていたってことだと思うよ。

4.「年間何百万トン」と言われても・・・

ふぅ~ん。「そんなもんかぁ」って感じ。

そうだねぇ。一般国民にとっては「年間何万トン」と言われてもなかなか実感できないよね。
そんな時は次のように換算してみるといいよ。あくまでも概算だよ。日本国民の人口を1億人として割り算してみよう。

700万トン÷1億人=700×10000×1000÷100000000=70キログラム。

すなわち、国民一人当たりにすると年間70キログラム程度の廃プラスチック類が排出されている。さらに、これを365日で割ると

70×1000÷365=192グラム。

国民一人当たりだと約200グラム。小さめのりんご1個分っていったところね。
これだと実感できるわ。200グラム排出して、そのうち130グラムがリサイクルされ、さらにそのうちの40グラム程度が輸出に廻っているってことね。

そう考えるとどうかな。

正直言うと「この程度ならなんとでもなるんじゃないかなぁ」と思ってしまう。
「通知」を発出するほど心配だったの?

その話は通知の次の箇所に繋がる訳だけど、今回は長くなったのでここまでとしましょうか。

<今回のまとめ>

  1. 国内の産業廃棄物である廃プラスチック類の排出量は年間約700万トン
  2. 廃棄物としての海外への輸出量は「0」。廃プラスチック類は輸出されていない。
  3. 廃棄物処理法上の「廃プラスチック類」ではなく、有価物としての「使用済みプラスチック」の輸出量は年間約150万トン。
  4. 700万トンの廃プラスチック類が国内で65%リサイクルされ、そのうちの3割程度が輸出に廻ったと推察される。
  5. 国民一人当たりに換算すると一日当たり約200グラムの廃プラスチック類が排出され、うち40グラム程度が輸出されていたと考えると実感しやすい。

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