リヴァックスコラム

第45回 「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」について聞いてみよう その2

長岡 文明氏

前回から、「むつご」さんからの質問を受けて「金属盗対策法」の解説をお願いしているのですが、前提になる類似の制度がいくつかあり、前回は廃棄物処理法の処理業、古物営業法、金属くず営業条例を取り上げました。
今回はその続きです。じゃ、BUN先生、お願いします。

5.有害使用済機器

はい。次に紹介するのが「有害使用済機器」。
「業許可」ではありませんが、この課題を検討するときに知っておかなければならない制度です。

「有害使用済機器」は知ってます。
たしか、平成29年の廃棄物処理法改正(平成30年施行)で登場した制度で、対象となる「物」は「有価物」なのですが、廃棄物処理法の第17条の2で「届出」の義務と保管、処分に一定の基準が適用されるって制度でしたね。

よく覚えてたね。
これは全国的に火災や環境被害が発生していることから制度化されたもので、対象になる「物」は、家電リサイクル法対象の4品目(テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン)と小型家電リサイクル法対象の28品目(ゲーム機や扇風機等)、計32品目が政令で規定されています。
定義として「使用を終了し・・・その一部が原材料として相当程度の価値を有し・・・」とあることから、「3.古物営業法」の対象となる「中古品をその用途のままで中古品として販売」には該当しません。
また、「相当程度の価値を有し・・・」ですので、「仕入れは買い取り、その後も販売」となりますので、廃棄物処理法の業許可の対象にもなりません。

そうそう、廃棄物処理法で規定はしているけど、廃棄物では無い「物」でしたね。
たしか、正規に廃棄物処理法の一般廃棄物または産業廃棄物処理業の許可を有している人物であれば、有害使用済機器を保管する場合でも、この規定による届出は不要としていましたね。

そうだね。
これは許可業者であれば行政が把握可能であるということからのようです。

さて、この「有害使用済機器」の対象になる「物」が前述のとおり廃家電32品目に限定であることから、バッテリーやケーブルなどはこの制度の対象外となっていることなどが課題となっています。

もちろん、「処理料金を徴収し仕入れている」場合は、本来は廃棄物処理法許可の対象ですし、「古物営業法で許可の必要な13種類に該当している物をそのままの形態で中古品として販売している」場合は、本来は古物営業法の対象になる行為ってことになりますね。

6.ヤード業者対策条例

そろそろむつごさんの質問の「金属盗対策法」に入りませんか?

これで最後です。「ヤード業者対策条例」。

「4.金属商」と同じく「条例」なんですね。
ということは、自治体によっては無いところもあるってルールですね。

そう。これは近年、福島県をはじめとしていくつかの自治体で条例化してきている形態です。
前述の、廃棄物処理法、古物営業法、金属くず営業条例でも規制の対象とならない「古物営業法で許可の必要な13種類には該当しないプラスチックくず等を買い取って、それを売り渡す行為」、これがヤード業者対策条例で許可の必要な行為となります。

なるほど。「有価のプラくず」は、ここまでとりあげた法律、条例、どれも該当しませんね。

福島県では「福島県特定再生資源の屋外保管の適正化に関する条例」を、本年、令和7年1月1日施行したようです。
前述のとおり、有害使用済機器は32品目に限定され、プラスチックくずやバッテリー、ケーブルなどは対象にはなっていません。そのような「物」を扱う「場所(「施設」とも言いがたい単なる「場所」もあるので「ヤード」と呼ぶときが多い)」で、騒音、振動、悪臭、汚水といった環境被害だけでなく、火災や盗難防止の観点もあり、条例により規制する自治体が出てきています。

7.物、行為の整理

以上のことを整理しますと、次のようになるようですね。

法令対象物対象行為備考
廃棄物
処理法
廃棄物処理料金を徴収 
有害使用済
機器
買い取り、保管、処分部品として価値がある政令32品目
届出の対象
古物営業法有価中古品売買省令13品目限定
金属くず
営業条例
金属くず売買(処理料金徴収の場合も)古物営業法対象外の有価物が主であるが、条例であるため一律では無い
ヤード業者対策条例プラスチックも含む売買(処理料金徴収の場合も)条例であるため一律では無い

上手にまとめてくれましたね。
なお、繰り返しますが、廃棄物処理法でも、3.19通知、「専ら再生4品目」といったちょっと例外的なの運用もありますし、「金属くず」や「ヤード」は条例であることから、自治体によって規制、規定の状況が異なります。

8.「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」

ようやく、むつごさんの質問の「金属盗対策法」ですね。さぁ、お願いします!

ここまで理解できていれば、
金属盗対策法」の第1条を見ればだいたいわかるよ。

(目的)
第一条 この法律は、特定金属製物品の窃取を防止するためには盗難特定金属製物品の処分を防止することが重要であることに鑑み、特定金属くず買受業について買受けの相手方の氏名等の確認を義務付ける等の措置を講ずるとともに、併せて指定金属切断工具を隠して携帯する行為を禁止すること等により、特定金属製物品の窃取の防止に資することを目的とする。

「・・・盗難特定金属製物品の処分を防止することが重要であることに鑑み・・・・特定金属製物品の窃取の防止に資することを目的とする。」ってことは、
窃盗、つまり、泥棒の防止が最大の目的なのね。

そのとおり。また、この目的は他にもポイントがあるよ。
「特定金属くず買受業について買受けの相手方の氏名等の確認を義務付ける等の措置を講ずるとともに、併せて指定金属切断工具を隠して携帯する行為を禁止すること等により、・・・」

古物商と同じように買取相手の氏名を記録しておけ、ってことと、工具を隠し持っててはダメってことね。

で、肝心の対象となる「特定金属製物品」「特定金属くず」って具体的には何ですか?

それは第2条。関係箇所だけ抜き出しするよ。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定金属製物品 特定金属(銅その他犯罪の状況、当該金属の経済的価値その他の事情に鑑み、当該金属を使用して製造された物品の窃取を防止する必要性が高い金属として政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)を使用して製造された物品のうち、主として特定金属により構成されているものをいう。
二 盗難特定金属製物品 窃取された特定金属製物品をいう。
三 特定金属くず 主として特定金属により構成されている金属くず(物品を製造する過程において生ずるもの及び古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)第二条第一項に規定する古物に該当するものを除く。)をいう。

なるほど。「銅」をまずは例示しているのね。その他は?

「政令で定める」としているけど、BUNさんが調べた限りでは、(執筆時点では)まだ政令は制定していないようだね。
当面は、「銅線」だけで十分なのかもしれないね。

どう(銅)して?

法案が提案された時の概要説明には、近年、太陽光発電設備から電線を切断して盗んでいく悪質犯が多発しているから法制化が必要である旨記載している。
だから、電線の素材である「銅」をまずは対象にしようということのようだね。

3号も注目ですね。
「古物営業法に規定する古物に該当するものを除く。」と規定している。

そうだね。これで、古物営業法と金属盗対策法の重複は「無い」ことになるね。

でも、ここまで勉強してきたら、
だったら、古物営業法施行規則(第2条)を改正して、対象物に「銅線を追加」すればいいだけのことじゃなかったの?とも思うけど…。

「処理業」「商売」の観点からだけなら、そうも思えるね。
ここでもう一つの視点「窃盗の予防」「盗品の転売防止」がある。第1条、第2条でこの点を見てみようか。

第1条「指定金属切断工具を隠して携帯する行為を禁止」や第2条「五 指定金属切断工具 ケーブルカッター、ボルトクリッパーその他の特定金属を切断することができる工具であって、一般消費者が通常生活の用に供することが少ないと認められ、かつ、特定金属製物品の窃取の用に供されるおそれが大きいものとして政令で定めるものをいう。」と規定したんだ。

大きなペンチなんかは隠し持っているだけで犯罪行為だってことね。

もちろん、正規の工事業者がちゃんと持ち運んでいる行為は犯罪じゃ無いけど、いかにも泥棒しようとして隠し持っているような状態は、この法律で処罰の対象にするってことだね。
似たような法律で「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律」、通称「ピッキング防止法」という、ピッキング(ドアの鍵をピンなどを使って開ける行為等)の道具を持っているだけで犯罪とするという法律と、同種の制度だと思う。

そうかぁ。この要因、条項も必要だったので、
「古物営業法改正で対象物追加する」ではなく、別立ての法律にしたんですね。

もっと他の要因や規定もあるかも知れないけど、
今回のむつごさんの質問には、この辺で足りるかな。

十分すぎるくらいです。
結局「金属盗対策法」は、悪質な窃盗、泥棒対策の法律なので、良心的に商売をやっている私には直接的には関わりないルールだってことは理解できました。

でも、この機会に廃棄物処理法処理業、古物商、金属商、ヤード業者などについて、今までモヤモヤしたままで曖昧にしていたことが整理できてよかったです。

実は、この課題は現在進行形で、次回の廃棄物処理法改正の一つの課題として「ヤード問題」が上げられているし、
つい最近は「太陽光パネルリサイクル法案」が制度の矛盾を指摘されて振り出しに戻る的なこともあったようです。
こんな状況ですので、近い将来、規定や運用が変わる可能性もあります。

今後とも注意して見ておかなければならない分野と言うことですね。
皆さんも、なにか質問がありましたらメールくださいね。じゃ、また。