リヴァックスコラム
第40回 「廃棄物処理法省令改正」について聞いてみよう その2
リヴァックスコラム愛読者の「むつご」さんから質問を受け、前回から廃棄物処理法の省令改正について解説してもらっています。
改正事項は3つあるようですが、
うち1つは改正に伴う「条ずれ」の修正のようなので、実質は2つ。
1つ目は電子マニフェストへの登録事項の追加、ということで前回の「その1」で取り上げました。
今回は「その2」ですね。では、お願いします。
3.産業廃棄物委託契約書の「伝達情報」の追加
この改正は産業廃棄物委託契約書の「伝達情報」の追加です。
今までの産業廃棄物委託契約書にも「伝達情報」は規定されていますよね。
はい、省令第8条の4の2第6号に次のように規定されています。
BUNさん流簡略表現で確認しておきましょう。
(委託契約に含まれるべき事項)
第八条の四の二
六 委託する産業廃棄物の適正処理のために必要な情報
イ 性状及び荷姿に関する事項
ロ 性状の変化に関する事項
ハ 混合等により生ずる支障に関する事項
ニ 含有マークの表示に関する事項
ホ 石綿含有産業廃棄物、水銀使用製品産業廃棄物等が含まれる場合は、その旨
ヘ その他当該産業廃棄物を取り扱う際に注意すべき事項
ここに一つ追加されるってことですね。
では、いよいよ、それはどんな事項か紹介してください。
これがなかなか厄介なんだ。リヴさんは「PRTR法」って知ってるかな。
名前だけは聞いたような気がするけど、改めて簡単に教えてください。
略称「PRTR法」、正式名称を「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」って言うんだけど、長いので「化学物質管理促進法」、もっと短く「化管法」とか呼ばれている。
ただ、「化管法」と似た略称で「化審法」というのもあるけど、こちらは「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」という別の法律なので注意してね。
で、PRTR制度とは、人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質が、事業所から環境(大気、水、土壌)へ排出される量及び廃棄物に含まれて事業所外へ移動する量を、事業者が自ら把握し国に届け出をし、国は届出データや推計に基づき、排出量・移動量を集計・公表する制度です。 平成13年4月から施行されています。
これに該当する化学物質を扱った人は届出しなくちゃいけないって制度ね。
で、該当する化学物質ってどんなもので、どの位あるの?
詳しくは環境省や経産省のホームページやパンフレット等を見て欲しいんだけど、
次のように記載されている。
対象となる化学物質は、人の健康や生態系に有害なおそれがあるなどの性状を有するものです。
環境中にどれくらい存在しているかによって「第一種指定化学物質」と「第二種指定化学物質」の2つに分けられています。環境中に多く存在しているほうが「第一種指定化学物質」で事業者が排出量を届け出たり国が事業所以外からの排出量の推計を行うのは、この「第一種指定化学物質」です。
また、この中でも人に対する発がん性があると評価されたもので特に注意を要する物質は「特定第一種指定化学物質」です。
PRTR法の対象事業者は、業種、従業員数、対象化学物質の年間取扱量という3つの条件があり、それぞれ一定の基準に合致する事業者が、環境中への排出量及び廃棄物としての移動量についての届出を義務付けられます。具体的には製造業や鉱業、電気業、ガス業などが対象となります。
一般廃棄物、産業廃棄物処理業も該当しているみたいだよ。
具体的な対象物質は?
対象物質は何回か見直しがされているんだけど、
トルエンやキシレンといった有機性溶剤やヒ素などの有害金属など、現在約500物質が「第一種指定化学物質」に指定されています。
今回の廃棄物処理法の省令改正に話を戻すと、このPRTR法がどう関わってくるの?
まず、ざっくり言うと「第一種指定化学物質等取扱事業者が第一種指定化学物質関連の産業廃棄物」についての関連情報を委託契約書に記載しなければならなくなるってことだね。
ちなみに、原文はこれ↓
第一種指定化学物質等取扱事業者(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年法律第86号)第2条第5項に規定する者をいう。)が委託者である場合には、委託契約書に含まれるべき事項として、「委託する産業廃棄物に同条第二項に規定する第一種指定化学物質(当該第一種指定化学物質等取扱事業者が使用し又は取り扱う特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律施行令(平成12年政令第138号)第五条各号のいずれにも該当しない製品に第一種指定化学物質が含まれ、又は付着している場合であつて、当該製品の質量に対する同令第4条第1号イに規定する第一種指定化学物質量の割合が一パーセント以上である場合及び同号イに規定する特定第一種指定化学物質が含まれ、又は付着している場合であって、同号ロに規定する特定第一種指定化学物質量の割合が〇・一パーセント以上である場合に限る。)が含まれ、又は付着している場合には、その旨並びに当該産業廃棄物に含まれ、又は付着している当該物質の名称及び量又は割合」を追加する。
うわぁ、勘弁してよ。
厳密性は多少犠牲にしていいから、概要を分かりやすく解説してくださいな。
まず、主語、述語。「委託契約書に含まれるべき事項として、・・・を追加する。」
でも、全員の委託契約書が対象かというとそうじゃない。最初に形容詞が付いているね。
「第一種指定化学物質等取扱事業者(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年法律第86号)第2条第5項に規定する者をいう。)が委託者である場合には、」ってとこですね。
これを簡単に表すと「PRTR法で届出している事業者は」ってことですね。
さっきの説明だと、「業種」、「従業員数」、「対象化学物質の年間取扱量」という3つの条件があるってことでしたね。たとえば?
「従業員数」は「常用雇用者21人以上の事業者」で、「第一種指定化学物質のいずれかを1年間に1t以上」取り扱う事業所のようだね。
対象業種としては製造業や電気、ガス、熱供給業、それに下水道や鉄道業なんかも対象になる。さっきも言ったけど一般廃棄物処分業、産業廃棄物処分業も該当するようだね。
(下水道や廃棄物処理業は「特別要件施設」として取り扱い量は別の考え方にしています。)
なお、PRTR法は平成13年から施行されて、既に四半世紀経過しているから、該当している事業所は総務課や担当の部署に確認して頂ければ、わかると思います。
なるほど。こういった事業所だけが今回の契約書の改正の対象になるってことですね。次は?
まず、カッコ書きを外してみよう。
「委託する産業廃棄物に同条第二項に規定する第一種指定化学物質が含まれ、又は付着している場合には、その旨並びに当該産業廃棄物に含まれ、又は付着している当該物質の名称及び量又は割合」となる。
これならわかります。
産業廃棄物に第一種指定化学物質が含まれる場合は名称及び量を契約書に書けってことね。
たとえば、「ヒ素を10ミリグラム含みます」ってことですね。
そうだねぇ。しかし、現実を考えてみればわかるけど、そんな物質そのものを産業廃棄物として排出する、なんてあまり想定できないよね。
そうよね。いくら有害な成分とは言え、わざわざ原料として買い入れている訳だから、そんなもったいないことはしないと思う。
よって、産業廃棄物としては第一種指定化学物質「そのものずばり」で排出するケースは少ない。そこで、「該当しない製品に第一種指定化学物質が含まれ、又は付着している場合」となる。
なるほど。産業廃棄物としては単なる「汚泥」とか「廃酸」なんだけど、
その中に「含有」「付着」しているケースってことね。
この「含有」「付着」の程度が、「1パーセント以上である場合」も契約書記載の対象にするよってことだね。(特定第一種指定化学物質量は0.1パーセント以上)
なるほど。と言うことは、現実的に今回の改正事項を簡単に言うと・・・
「PRTR法で届出している事業者は、第一種指定化学物質が1パーセント以上含有している産業廃棄物の処理を委託する場合は、契約書にその情報を記載しなければならない。」ということになるね。
と言うことは、PRTR法の届出の対象になっていない事業者は、今回の改正には直接関係しないし、届出の対象になっている事業者でも実際に処理委託する産業廃棄物に第一種指定化学物質が含有していないのであれば、やはり今回の改正には直接関係しないってことね。
理屈としては、そうだね。
なんか、奥歯に物が挟まったような返事ですね。
理屈としてはそうなんだけど、「含有していない」かどうかは分析してみないとわからないことだね。もちろん、第一種指定化学物質を一切使用していない事業所なら別だろうけど。
そうねぇ。少なくとも、第一種指定化学物質使用している事業所では含有している可能性はあるよ。
そうなると、結局はPRTR法で届出をしている事業者は、今後は定期的に分析して、含有していないことを確認しておかないと、となるね。
そして、どうせ分析してるんだったら、その情報は処理業者さんにお伝えしておいた方がいい。
なるほど。法令条文では「一種指定化学物質が含有している時は」となってはいるが、結局のところはPRTR法で届出をしている事業者は、産業廃棄物委託契約書に含有の状況を記載するってことになる訳ですね。
他になんかお伝えしておくことありますか?
特別管理産業廃棄物の委託基準として既に政令に次の条項があります。
(事業者の特別管理産業廃棄物の運搬又は処分等の委託の基準)
第六条の六 法第十二条の二第六項の政令で定める基準は、次のとおりとする。
一 特別管理産業廃棄物の運搬又は処分若しくは再生を委託しようとする者に対し、あらかじめ、当該委託しようとする特別管理産業廃棄物の種類、数量、性状その他の環境省令で定める事項を文書で通知すること。
これは知っているよ。だから、特管産廃の委託契約書やそれ以前に交付する文書には、SDS、分析結果書を添付しているもの。
特管産廃にはあるこの「事前通知」の規定は普通産廃にはありません。注意深い処分業者は普通産廃でも汚泥や鉱滓などでは分析結果を求めているところも多いんだけど、法令の規定としてはあくまでも「性状を明らかにする書面(主旨)」だね。
そりゃそうですよ。だって、普通産廃には、がれき類や廃プラスチック類だってあるんだから、それまで「分析結果書を付けろ」と言われても、なにを分析していいかわからないし、常識的にも不要だと思います。
そうだね。だからこそ、「特管産廃になる可能性のある物」について「特管産廃ではありませんよ」という証明としてや「特管産廃としてどの程度のリスク、有害性、濃度があるか」ということで分析していた訳だね。
今回のPRTR法一種指定化学物質は全てが特管産業廃棄物ではありません。
有害性によって特管産廃になる物質はカドミやトリクロロエチレン、ダイオキシンといった26物質しかないんだ。
一種指定化学物質は前述の通り約500物質もあるから、むしろ特管産廃では無い方が圧倒的に多い。その物質まで、事実上、分析をして処分業者に積極的に情報を伝える、より一層安全化対策を推進するってことなんだと思う。
そうかぁ。使用している事業者は負担は増えるね。
それ程では無いかも。と言うのは、この事業者はPRTR法の届出事業者なので、たぶん、今までも定期的に分析はしていると思う。その分析結果書を1枚余計にコピーして添付すればいいだけだし、委託契約書はマニフェストと違って1回1回の委託の度に交付する物でも無いから、それほどの負担でも無いかも。
そうかなぁ。じゃあ、今回該当しそうな事業所って全国にはどの程度あるの?
経済産業省と環境省は毎年「化学物質の排出量・移動量の集計結果」を公表している。
直近の令和7年2月公表データによると届出事業所数は32,502。リヴァックス所在地の兵庫県では 1,417となってるね。まずは、ここが今回の省令改正に関係してくる排出事業者と想定していいと思います。
で、この対応はいつまでにやっておかなくちゃならないの?
委託契約書はその都度締結するって排出事業者は少ないと思うけど、更新条項を入れている事業者でも年に1回程度は見直し確認をしているところが多いと思う。そんな状況も勘案したんだと思う。
条文の公布は令和7年3月下旬だったけど 「直ぐに」ってことではなく、施行日は令和8年1月1日としているので、ここまでには関係ある事業者は契約書にこの事項を追加しておくようにってことになるかな。
じゃあ、今回の話をまとめてください。
今回の省令改正の1つ。産業廃棄物委託契約書法定事項の追加。
「PRTR法で規定する約500物質を使用する「第一種指定化学物質等取扱事業者」が第一種指定化学物質や特定第一種指定化学物質が一定以上含有する時は「適正処理に必要な情報」として契約書に記載しなければならない。」となります。
施行日は令和8年1月1日なので関係者は契約書の見直しをしておいてくださいね。