リヴァックスコラム

第44回 「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」について聞いてみよう その1

長岡 文明氏

リヴァックスコラム愛読者の「むつご」さんから質問をいただきましたので、今回は現在連載中の「許可事務通知」を中断して、取り上げたいと思います。

いつもお世話になっております。「特定金属くずに係る法律」について質問です。

金属くずについては廃棄物処理法では専ら物であり、基本有価物になっているイメージがありますが、以前コラムでも取り上げられていた雑品スクラップの保管ルールができたり、調べると各県で金属くず条例のようなものがあったりと金属くずの取扱いにいろいろなルールがあります。

金属くずを取り扱うときの許可(金属くず商?古物商?)やルールについて整理して理解しておきたいと考えてます。
解説をお願いします。

むつごさんの質問、ごもっともだと思います。
BUN先生、一度解説してくださいな。

今回、むつごさんから質問された法律はおそらく、正式名称を「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」という、令和7年6月成立、施行の一部は9月、その他は1年以内に施行という、出来たてほやほやの法律だと思われます。
なお、略称は「金属盗対策法」としているようだね。
この法律自体は、25条しか無いので文章として読む分には10分程度で読めると思います。参考に添付しておきます。

ただ、この法律がなぜ必要だったか、むつごさんのように、廃棄物処理法処理業、古物商、金属商、ヤード業者などについてご存じの方ほど、逆に戸惑うかも知れませんね。

そうなんですよ。
今回の「金属盗対策法」とともに、廃棄物処理法処理業と古物商、金属商、ヤード業者の区別、相違点、類似点などについて解説してください。

廃棄物処理法の処理業、古物商、金属商、ヤード業者については、数ヶ月前に技術管理者協会の機関誌のコラムに掲載したんだけど、その時多少勉強したので、付け焼き刃のところもあるけどその延長で取り上げてみましょうか。

1.序章

さて、改めてこのテーマはなかなか判りにくいですね。人によって微妙に表現が違ったりしていたりすることもあるようです。
古物商や金属商は専門外ではありますが、廃棄物処理法担当者から見た違いなどについてまとめてみました。
なお、古物商と金属商の知見については、一般財団法人 地方自治研究機構(以下「地自研」と称する)のHP(原典は冨高幸雄著「日本鉄スクラップ業者現代史」)を参照させていただきました。

まず、いくつか「判りにくい」要因を挙げていきます。
そのひとつは、「金属商」はオールジャパンの法律による制度では無く、一部の自治体(道府県)の条例により規定している制度という点です。

自治体の条例ということは、そもそも存在していない自治体も多いし、制定していても内容や文言が違っているってことですね。

そのとおり。次に、廃棄物処理法の対象となる「廃棄物」自体が、総合判断説によるものとされ、さらにいわゆる「3.19通知」により、廉価による買取であっても廃棄物処理法が適用されるケースもあることが挙げられるかな。

この総合判断説については、何回聞いても判りにくいですよね。たしか、物が有価物か廃棄物かは、「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「占有者の意志」という5つの要素を総合的に判断してはじめてわかることだって理屈ですよね。

そう。だからいくら「買取」の形態を取っていたとしても、廃家電などは廃棄物として判断されるケースも出てくる。「買取」というのは、「取引価値の有無」という一つの要因に過ぎないから、他の4つの要因も慎重に見ておかないといけない。というのが、いわゆる「3.19通知」だったね。

これだけでももう訳が分からなくなりそうだけど、これについてはたしか以前のコラムでも取り上げていただきましたね。しょうがないので、今回は「わかった」ことにして先に進めてくださいな。

じゃ、進めるよ。次に「むつご」さんの質問にも登場した「専ら再生4品目」の関係がある。「専ら再生4品目」は昔から通知により「廃棄物であっても許可不要」として扱っている「物」だったね。

これも法令の条文では割り切れない運用でしたね。たしか、古紙、くず鉄、空きビン類、古繊維の4品目については「専ら再生」しているのであれば、許可不要という運用でしたね。

そう。これは連載中の「許可事務通知」で、令和になってからも改めて通知されている。今回、テーマの「金属くず」は4品目の中の「くず鉄」に該当することも、すっきり言い切れない要因になっていると思われます。

もう頭が混乱しそうです…

まだ序章だけど、この問題の難しさはわかっていただけたようだね。したがって、現実、実際の運用、特に行政処分や刑事処分に関わるような事例については、法令の専門家と十分に吟味してくださいね。

2.廃棄物処理法

立て直して…まずは、私達の基本原則である廃棄物処理業の対象となる「物」「行為」から整理してくださいな。

「物」は、廃棄物処理法で規定する「廃棄物」であり、「行為」は「他者の廃棄物の処理を<業>として行う場合」です。
序章で述べたとおり、「廃棄物」の定義は、現在は「総合判断説」によるとされていて、「物の性状」「排出の状況」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「占有者の意志」の5つの要素で判断するとされています。
そのため、前述の3.19通知では家電リサイクル法対象4品目などは廉価での買取であっても、「物」は廃棄物と判断されるケースが出てきます。ただ、このレベルを議論するときりがありませんので、ここでは「例外はあるが」、「処理料金を徴収される物」≓「廃棄物」として話を進めます。

是非、そうしてください。厳密に言うと違う場合もあるけど、「裏取引が無く、買い取られている物は有価物。処理料金を払わないと持って行ってくれない物が廃棄物」というレベルで進めてくださいな。

次に「業」ですが、一般的には「不特定多数」「営利目的」「反復継続」の三要素と言われます。

これは感覚的にも理解しやすいわ。家族の物だけ対象とか、ボランティアのようにまったく処理料金を貰わないとか、隣の人の廃棄物を1回だけ運んであげた、なんていうのは「業許可」の対象にはならないってことですね。

一般的にはそうなんだけど、厳格に言うと、公衆衛生を目途とする法令にあっては「特定または不特定多数」を対象に「社会性を持ち(非営利であっても)」、「反復継続」的に行われる行為とされています。

なるほど。NPOのような非営利団体であっても、何回も繰り返して廃棄物を扱うような時は「許可取ってね」ってことかな。

そのような理解でいいと思いますよ。次に、「業許可」の対象となる「処理」は収集運搬と処分(中間処理、最終処分)です。
なお、前述のとおり廃棄物処理法スタート時(昭和46年)からの通知による運用で「専ら再生4品目は許可不要」として扱っていることも、この問題をさらに分かりにくくしています。
「専ら再生4品目通知」とは「古紙、くず鉄(古銅を含む)、古繊維、空きビン類を専ら再生する時は業許可不要」とする運用ですが、この話はご要望があれば、別の機会にでも取り上げることとしましょう。

ここまでを、誤解覚悟で簡単に言えば「廃棄物を料金を取って処理する行為」、これが廃棄物処理法で許可の必要な行為となるってことですね。

3.古物営業法

次に「古物商」についてですが、これは正式には「古物営業法」という、昭和24年に制定された法律で「盗品等の売買の防止」を目的にして規定しているものです。
この経緯は前述の「地自研」掲載の文章を紹介します。

「古物商取締法(明治28年)は、古物商とは「主に一度使用したる物品(略)を売買交換する」者(1条)と定義したから、一度でも使った銅鉄類を売買交換する者は、おしなべて古物商として、取締り対象となった。しかし戦後の古物営業法(1949年・昭和24年・法律)は、古銅鉄類を「古物」類の対象(規則2条は古物12種を列挙する)に加えず、「空き缶類、金属原材料、被覆いのない古銅線類」は同法の取締りの対象外とした(警視庁・古物営業法の解説)。」

現在の「古物営業法」の施行規則(第2条)を見ると、1号美術品類、2号衣類から13号金券類まであるようで、1品目追加されたようです。推察するに、いつかの時点の改正で、4号の自動車あたりが追加されたのではないかと思います。

いずれにしても、「古物営業法」で対象とする「物」がこの施行規則に規定されている「物」に限定されるってことですね。いわゆる質屋さんが扱うような「物」が対象ってこと?

そうだね。これはそもそも目的が「盗品等の売買の防止」であることから、「盗まれないだろう」と推察される大型の船舶や容易に動かせない重量が5トンを超える機械などは対象外にしているようです。
また、「盗んでも割が合わないだろう」と思われた「空き缶」なども対象外にしたようだね。
実は、この規定が今回質問の「金属盗対策法」に大きく関わることなんだけど、それについては後ほど詳細に取り上げましょう。
「古物営業法」にはもうひとつ重要なポイントがあるようなんだ。

なんですか?

「古物営業法」の条文には「古物を売買し」という規定がある。このことから、「処理料金を徴収する」行為は該当しないようです。

ほぉ、ということは、廃棄物処理法の許可は「処理料金を徴収する」のがほとんどでしょうから、「古物営業法」と「廃棄物処理法」の許可は重複する「対象物は無い」ってことになるわね。

さらにもうひとつ、面白い規定があるんだ。
「古物営業法」の第2条の定義に「使用のために取引されたもの」とある。このことから、インプットとアウトプットで「利用用途が違う」ケースは該当させないようです。

どういうことですか?具体的には?

たとえば、「中古自転車を買い取り、中古自転車として販売するとき」は該当するが、「中古自転車を買い取り、これを潰して鉄くずとして販売するとき」は該当しないようです。

ここまでの話をまとめると、誤解覚悟で簡単に言えば「13種類の中古品を買い取って、その中古品として売り渡す行為」、これが古物営業法で許可の必要な行為となるってことかな。

4.金属くず営業条例

次の「金属くず営業条例」はどんなルールなんですか?

ここまで話した「2.廃棄物処理法」と「3.古物営業法」の規制範囲を包含図で思い浮かべるとおわかりいただけると思いますが、「鉄くず(古物営業法の13品目以外)を買い取って売り渡す」という行為は、どちらにも該当しないことになります。

廃棄物処理法では「買い取る」物は(今回のざっとした話の展開の中では)廃棄物では無いから、廃棄物処理法の対象では無いし、古物営業法では対象物を13品目に限定していて、鉄くずはこの13品目に入っていないからですね。

そうだね。「3.古物営業法」で述べたとおり、古物営業法が施行された昭和24年の時点では「そのような行為は商売として成立しない。泥棒もそんな非効率なことはやらないだろう」ということだったようです。ところが、「地自研」掲載の文章等によると、朝鮮動乱で鉄くずが高騰し、一部の地方では商売として成立する(もっとも、盗んでくれば仕入れは0円ですから成立しやすいのでしょうけど)ようになってしまった。

「朝鮮動乱」ってネットで検索すると、1950年、昭和25年に朝鮮半島で起きた戦争ですね。いわゆる、戦時景気ってことね。

ただ、この「鉄くず高騰」は、地域差が大きかったようで、それで窃盗が多発した自治体により、目的は古物営業法と同様に「盗品転売防止」を主として、「金属くず営業条例」が制定されたという経緯のようです。

「1.序章」でも解説いただいたけど、これは自治体の条例なので「全て同じ」ということではないんですね。

そのとおり。だから、この条例は存在しない自治体も数多くあります。

整理すると、自治体によって多少の規定の仕方は違うけど、「古物営業法で許可の必要な13種類には該当しない金属くずを買い取って、それを売り渡す行為」、これが金属くず営業条例で許可の必要な行為ってことね。
では、質問の「金属盗対策法」の説明に入ってくれますか?

いやいや、まだまだ他の制度について説明しておかないと、この課題は理解できないんだ。でも、今回は長くなったので、つづきの「有害使用済機器」「ヤード」「金属盗対策法」については、次回ってことにしましょうか。

わかりました。じゃ、皆さん、次回も是非お付き合いくださいね。

※古物営業法施行規則が改正され、令和7年10月1日から、
 ・エアーコンディショナーの室外ユニット(エアコン室外機)及び電気温水機器のヒートポンプ
 ・電線
 ・グレーチング(金属製のものに限る)
 については1万円未満の取引であっても相手方の確認義務等が課されることとなるようです。